なぜ、あなたの会社は利益を生み出せないのか?それは、今までの会計の公式が間違っていたから。これまでの会計原則である「売上-経費=利益」に従っていてはダメ。もっと儲かる会社にしたいのなら、「売上-利益=経費」へと頭を切り替えろ―ー。世の経営者たちにそう訴えかけるのが『PROFIT FIRST お金を増やす技術』(マイク・ミカロウィッツ著、近藤 学訳、ダイヤモンド社、3月14日配本)です。著者のマイク・ミカロウィッツは米国人の起業家で、彼自身が破産寸前にまで追い込まれたことがきっかけで、この「プロフィットファースト(利益が第一)」は生まれました。一言でいえば「借金を減らし、キャッシュリッチな会社に変わるための資金管理法」です。本連載では、多くの経営者が経営改善に成功している実証済のシステムである「プロフィットファースト」の基本を、6回にわたって紹介します。

預金残高会計は、人間の本能に根ざしたシステム

あなたの仕事は、利益を最大化すること

売上は虚栄心、利益は健全性、現金は王様」という格言があります。

 あなたの仕事は、その事業の大きさにかかわらず、利益を最大化することです。利益に集中すれば、ビジネスの合理化と成長という面からも新しい方法を発見できるでしょう。

 最近、コロラドのジョージタウンでスピーチを行いました。私の親友が主催するあるイベントでのことです。私がプロフィットファーストについてプレゼンテーションを行うときにありがちなことですが、ある起業家がこう言いました。

「確かに結構なお話ですが、今私に必要なのは成長なのです。そのために、お金をすべてビジネスに充てなくてはいけないのです」

 私は、その人物にこう尋ねました。

「どうして成長が必要だと思うのですか?」
「より多くのクライアントをマネジメントし、より売上を伸ばすことができるようになるためです」
「どうしてそうなりたいのですか?」

  私の問いに、その人物はまるで、異星人を見るような目で私を見ました。

「そうすれば、会社をより大きくできるでしょう」
「どうして会社を大きくしたいのですか?」
「そうすれば、より多くのお金を稼ぐことができるでしょう」

  その口調から、私はその人物が苛立ち始めていることが分かりました。

「なるほど!なぜ、今すぐ、より多くのお金を生み出さないんですか?」

 その人物は、とにかく成長して、いつの日か利益を得ようとしていました。

 あるいは、己のエゴや虚栄心のために成長しようとしていたのなら、それは愚か者です(とは言っても、恥ずかしい話、私自身がかつては、まさにそうだったのですが)。

 もし、いつかあなた自身のお金を得るために成長したいというのなら、遠回りをしています。これが現実なのですが、もしも、健康的で持続性のある成長をしたいと思うなら(そういう成長は、当然のようにさらに健康的な成長を生み出します)、利益から逆算する必要があるのです。

 利益を先に得るのです。利益の問題を解決せずに成長することなどできません。まずは利益を確保する。それから成長。利益を生むものを見定め、そうでないものを切り捨てなければなりません。

 成長に焦点を合わせると、何を犠牲にしても成長しようとするあまり、非常に困難な道を辿ることになります。しかし利益を最初に考えれば、持続的に利益を生み出す方法を考えざるを得なくなります。そうすると、収益性、安定性、健全性というものを、ずっと考えていくことになるのです。

私たちは「預金残高会計」でお金を管理している

 あなたがいったい、いくらの預金を持っているのかということを神様は知っているのかと、考えたことがあるでしょうか?あなたが数ヵ月前に発行した4000ドルの請求書を、顧客がようやく支払ってくれたとします。

 しかしその後、あなたが所有している運送用トラックが故障。新しいトラックと4000ドルは引き替えです。その後新しいクライアントを獲得し、札束が舞い込んできます。でも、喜ぶのもつかの間、従業員に給与の支払いをしなければならないことを思い出します。とりあえず急場は凌げそうですが、クレジットカードを使って、もしもの支払いのために現金を残しておいた方が無難です。

 しかしその後、すっかり忘れていた別のクレジットカードの支払いを見つけます。預金口座にいくらの残高があるのか?それを知っているのは、神様ではなく、私たち自身です。

 私たちは常に、自身のビジネスのお金を管理しています。これを「預金残高会計」と呼んでいます。

 もしあなたが他の起業家や私と同じなら、こんな感じでしょう。あなたは預金残高を見て、大金が入っていることを確認します。よしよし、と10分程度は悦に入り、その後、積み重なっている請求書の山を支払ってしまおうと考えます。残高はゼロになり、すぐに胸が締め付けられるような毎度おなじみの感覚に襲われます。

 しっかりと預金が入っている口座ではなく、ほとんど何も入っていない口座を見たとき、私たちはすぐさまパニックに陥ります。何とかしなければと。早く売上を上げなければ!催促の電話をしなければ!請求書が届いてなかったことにしよう……。

 あえて恐れずに言えば、おそらくあなたは、時おり損益計算書だけを見ていることがあるはずです。キャッシュフロー計算書や貸借対照表を見ることは滅多にないのではないでしょうか?

 仮にあるとしても、こうした書類を日々精査し、その内容を正確に理解していると言えるでしょうか?

 しかし、銀行口座なら毎日確認しているはずです。もし毎日銀行口座を確認しているなら、あなたは多くのリーダーや起業家と同じような行動をしていると言えます。

 問題を発見し、解決したいというのは、起業家としての私たちが自然に持っている欲求です。そうやって私たちはお金を管理しています。銀行に十分なお金があれば、お金について問題はないと考え、他の挑戦や課題に目を向けるようになります。

 もし銀行に十分なお金がないときには危険信号です。すぐにお金の問題を解決しようとします。すぐに売掛金を回収しようとしたり、高額なものを売ろうとしたり、こうした戦術を組み合わせようとしたりします。私たちは、請求書を精算するのに必要なはずのお金を使ってしまうのです。

 すべてを支払うだけの十分なお金がないときには、売上や売掛金の回収によってお金を得ようとします。新たな売上を生むために直接必要な経費以外にも、多くの付随した経費が発生、また同じサイクルが始まります。

 そうしていくうちに、やがて唯一の解決策が借金になってしまうのです。自宅を抵当に入れ、建物を担保にクレジットの信用枠を増やし、クレジットカードの山は積み上がります。こうして多くの起業家が、自転車操業でパニック状態の経営をするようになっていくんのです。

人間の本性とともに機能するメソッドとは?

 ここであなたに質問です。

 このような方法で経営をしていて、ビジネスを成長させる自信がどれぐらいありますか?いつかこのジェットコースターから降りられると考えていますか?このシステムのままで、借金から抜け出せると考えていますか? もちろん、不可能です。

 預金残高会計というのは、人間の本性に根ざしています。私たち人間は変化を嫌う生き物です。変化は困難を伴います。どんなに強い意志をもってしても、預金口座の残高を見ながらビジネスを行うという人間の本性を変えるには、数年の月日を要するでしょう。

 しかし、あなた自身が生み出した「自分の会社という金食いモンスター」がすべてを破壊し尽くす前に、残された時間が数年もあるでしょうか?私はないと断言します。

 だからこそ、もし自転車操業のパニック状態の生活から抜け出したいなら、私たち人間の本性とともに機能するメソッドを見つける必要があるのです。それが、プロフィットファーストです。

[著者]
マイク・ミカロウィッツ(Mike Michalowicz)
米国人のアントレプレナー。2社の1億円超企業を創業し売却。また、プロフィットファーストプロフェッショナルズの共同創業者として、同メソッドを伝える会計士、コーチを組織化する。元ウォールストリートジャーナルのコラムニストで講演家としても著名。TEDxなどでビジネスや起業家精神についてのスピーチを行っている。
他の著書に、『THE PUMPUKIN PLAN』(日本未完)、『トイレットペーパーの起業家』等がある。
[訳者]
近藤 学(こんどう・まなぶ)
日本人初のプロフィットファーストプロフェッショナル。
京都府で税理士事務所を開業。ネットベンチャー企業のCFOとして創業に参加。
中小企業の家庭に育ち両親の資金繰りの苦労を目の当たりにしてきた経験をもとに、自らキャッシュフロー改善のソフトウエアを開発し、現在約150名の税理士等に会員制サービス(こがねむしクラブ)を通して提供している。
訳書に『あなたの中の起業家を呼び起こせ』(マイケル・E・ガーバー著、エレファントパブリッシング)。著書に『一番楽しい!会計の本』(ダイヤモンド社)、『「儲からない」と嘆く前に読む会計の本』(大和書房)などがある。