最初から全員一致ではダメ<br />うわべを決めただけでは問題の本質に辿り着かないダイヤモンド社刊
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「一流の意思決定者は、きわめてシンプルなルールをもっている。重要なことで最初から全員の同意を得られる場合には、あえて決定はしないというルールである。全員が考える時間をもてるよう、決定を先延ばしにする」(『ドラッカー名著集(4)非営利組織の経営』)

 ドラッカーは、独裁や官僚支配のない社会を探し、自由と自治を基本とする産業社会がその答えたりうると考えた。サラリーマン経験のないドラッカーに、企業の内部を見せてくれたのが、第二次世界大戦当時、すでに世界最大・最強のメーカーとなっていたGM(ゼネラル・モーターズ)だった。

 ドラッカーは、GMの主な事業所すべてを見て、主な会議すべてを傍聴した。その一つの会議で、彼は、アルフレッド・P・スローン会長が「本件に異議はありませんか」と聞き、全員がうなずいたとき「それでは次回もう一度検討したい」と言うのを目撃した。

 企業が抱える問題はすべて現実の世界のものである。当然複雑である。あたかも命あるもののようである。単純に答えの出せる問題などありはしない。簡単に答えが出るときは、なにも考えていないか、理屈に縛られているか、あるいは欲にかられているときである。

 10人の役員がいれば10の視点があるはずである。

 米国の政治学者メアリー・P・フォレットは、「意見の違いを大事にせよ」と言った。しかも、「意見の違いがあるときは、誰が正しいかを考えてはならない」「何が正しいかさえ考えてはならない」とした。全員の答えが正しいと考えるべきである。ただし、それは違う問題に対してである。全員が違う現実を見ているからだ。

 むしろ意見の違いが、問題を多面的かつ立体的に見ることを可能にする。しかも、相互理解までも可能にしてくれる。

「意見の対立を、問題に対する共通認識にまでもっていくことができれば、あとは、連帯感と責任感をもたらすことは容易である。アリストテレスに発し、初期キリスト教会の原則とまでなった言葉がある。[本質における一致、行動における自由、あらゆることにおける信頼]である。信頼が生まれるには、あらゆる反対意見が公にされ、真摯な不同意として受け止められなければならない」(『非営利組織の経営』)

週刊ダイヤモンド