シリコンバレーでIT企業家として長年活躍してきた著者が、ITの専門家としての技能を生かして、自らの体を「ハック」し尽くし、さらには23年の歴史を持つパロアルトのNPO、シリコンバレー保健研究所の所長(後には会長)として、さまざまな医学分野のエキスパートに取材し、現在の科学の最先端の脳の機能UP法を1冊にまとめた。タイトルは『HEAD STRONG シリコンバレー式頭がよくなる全技術』。アメリカでは初版から10万部で刊行され、大反響を呼んでいる。本稿では、同書から特別にそのハイライトを紹介したい。

脳のひだを本当に増やす「脳の筋トレ」とは?

脳のひだは「○○」をすると本当に増える

 研究によると、「瞑想」は脳を構造レベルで変えるのだという(*1)。瞑想は脳の筋力トレーニングのようなものだと考えよう。

 ウエイトを持ち上げていると、目に見える結果として筋肉が強くなり際立ってくる。じつは瞑想の実践も目に見える結果をもたらす。脳の外層のひだが増えるのだ。このひだは、種を超えて知性と高度に関連している特徴である(*2)。

 脳のひだが多いとき、同じ大きさの頭蓋骨の中でもニューロンがアクセスできる表面積が大きくなるから、情報が処理しやすい。そうしてニューロン間の相互の通信がいっそう速く効率的になる。このひだは加齢により自然に伸びてしまうのだが、瞑想はこのプロセスを遅らせてくれる(*3)。

 瞑想はまた、脳の大脳皮質と島皮質の一帯を太くする。島皮質とは、複雑な思考や身体的認識、集中力、問題解決と関連していて、やはり一般に加齢で細くなる脳の部位である(*4)。

 そして瞑想は、ストレスホルモンのコルチゾールとアドレナリンの濃度をかなり低下させ、炎症を効果的に抑制し、ラブラドール脳を落ちつかせて(ラブラドール脳については、本書第1章で解説)、きわめて厄介な状況でも集中と精神の安定を保てるようにすることが証明されている。

 基本的に瞑想は感覚を研ぎ澄まし、気分を落ちつかせ、新しいものごとを学ばせ、あなたをいやな奴じゃなくする。どうりで研究にも、瞑想は人間関係を改善し、人生の目標を達成しやすくするとの結果があるわけだ(*5)。

 もちろん、ミトコンドリアに好影響を与えないならば、瞑想について論じてはいない。

 2013年のハーバード医科大学の研究では、たった20分間の「リラクセーション反応」──横隔膜呼吸、体の透視、マントラ反復、マインドフルな瞑想などから成る──を経験した人たちが、高血圧の軽減、不妊の緩和、うつ病の改善などの健康上の利益を享受した。

 これらの利益は「ミトコンドリアのエネルギー生成と利用を改善し、したがってミトコンドリアの回復力を高めた」ためとされた。定期的に瞑想している人のほうが初心者よりも効果が高かったが、瞑想の実践を1回しただけでも歴然とした差が見られた。まるであの大昔はバクテリアだった小さな細胞の動力源(=ミトコンドリア)たちが、瞑想に耳を傾け、反応して変化したかのようだ!

 科学者は研究によって瞑想が測定可能な影響を脳に与えていると証明してきた一方で、瞑想がどういうメカニズムで人の生体を改善しているのかについてはいまもって調査中だ。しかし僕らはたしかに、ミトコンドリアが、瞑想に影響される体のシステムの統制に関係していることを知っている。前述の研究が示唆していたとおり、ミトコンドリアが周囲の環境を感知し、それにしたがってエネルギー生成を適応させ、瞑想にも対応しているとみるのは論理の飛躍にすぎるだろうか?

 僕にとっては、これは瞑想が体のシステム全般にわたって数多くの好影響をもたらす最もそれらしい説明であり、多くの人を不快にさせる瞑想の宗教的な意味を都合よく回避するものである。あなたは瞑想によって神とつながるという考えには異議を唱えるかもしれないが、ストレスの程度をコントロールすることがミトコンドリアの機能を改善するということに反論はしがたいはずだ。