私たちはいま、AIにより既存のビジネスが破壊される一方で、「人生100年時代」と言われるほどに寿命が延びる時代を生きています。会社が10年後に残っている保証はないし、あったとしても、一生同じ会社に勤める人は非常に稀な存在になるはずです。これからは、誰もが一度は、転職やフリーランスを経験するようになるでしょう。

そうした新時代にあわせてまとめられた超実践的な書籍が、『どこでも誰とでも働ける』です。

グーグル、マッキンゼー、リクルート、楽天など12回の転職を重ね、「AI以後」「人生100年時代」の働き方を先駆けて実践する著者が、その圧倒的な経験の全てを込めました。ここでは、4月19日より発売となる同書の「はじめに」を先行公開します。

スイスで美少女ゲームをつくる人たち

 ぼくがグーグルで働いていたとき、海外で開催されたカンファレンスで、スイス人のゲーム会社の経営者と知り合いになりました。10人くらいのベンチャーで、スイスにいながら日本市場向けに美少女ゲームをつくり、ガッツリ儲かっているというのです。

「そんなに儲かっているなら日本に来ればいいのに」と聞くと、こんな答えが返ってきました。

「自分たちは美少女ゲームが大好きだけど、日本のゴミゴミした感じは嫌い。スイスの食生活と文化に満足している」
「日本で会社をつくっても、ゲームメーカーがたくさんあって、エンジニアも集めにくい。でもスイスにいれば、『きれいな空気を吸いながら美少女ゲームをつくれるなんてサイコー!』というエンジニアが集まってくれる。だから日本には行かないんだ」

 好きなところに住んで、気の合う仲間とゲームをつくって、それを地球の反対側の人に届ける。インターネットを活用することで、十分にビジネスが成り立っているのです。

日本人もいよいよ巻き込まれる! <br />Google、マッキンゼー、リクルート、転職12回の男がいま仕事術の本を書くわけ

 しかし、日本にいて日本の会社の方々と仕事をし、話をすると、こうした働き方は自分とは無縁と思っている人がまだまだ多いようです。むしろ、好きでもない職場で働き、その現状を変えられないと思っている人が多いのが現実です。

 もちろん、終身雇用の崩壊や働き方改革が叫ばれるような時代の変化を、「知識として」知っている人は少なくありません。しかし、それで「自分はどうしよう」と考え、生き方や働き方を変えている人となると、本当に少ない。

 実際、会社が社員に将来を保証することは、どんどん難しくなってきています。にもかかわらず、会社は人事制度や教育システムを変えることができず、旧来の価値観を若者に刷りこもうとしている。
 そのジレンマを正しく言葉にはできないながらも、漠とした不安を感じ、胸に抱え悩んでいる。そんな若者に、何人も会ってきました。

 彼らにも直接言っていることですが、改めてここで断言しましょう。その不安は完全に正しい。世界はいま、とても大きな変化の中にあって、日本もその流れと無縁でいられるはずはないのです。その影響は、個人の生活や働き方にも確実に及ぶことになります。

 さて、新刊のタイトル『どこでも誰とでも働ける』には、2つの意味があります。

 1つは、(1)どんな職場で働いたとしても、周囲から評価される人材になるということ。そしてもう1つは、(2)世界中のどこでも、好きな場所にいながら、気の合う人と巡り会って働けるということです。

 現実味のない話に聞こえるでしょうか。しかし、「どこでも誰とでも働ける」ことを目指すのは決して「理想論」ではなく、激動する時代をサバイブするための、もっとも「現実的」な方法なのだ、というのが本書の大きなメッセージです。

 そんな本を、どんな人間が、なぜいま書くのか。まずはそこから話を始めましょう。

 ぼくは、インターネットが人間をより人間らしくすると信じています。まだ誰も信じていないような新しいアイデアを加速することが大好きで、さまざまな企業を渡り歩きながら、それらをちょっと加速させる新規事業に取り組んでいます。ぼくの人生はまさにプロジェクトの連続なのです。

 ぼくは大学院で人工知能の研究に没頭したあと、コンサルティングファームのマッキンゼー・アンド・カンパニーに入り、NTTドコモの「iモード」立ち上げを支援しました。

 次にリクルートに転じ、そのあとネット企業のケイ・ラボラトリー(現KLab)、サイバード、オプト、グーグル、楽天、さらにFringe81(フリンジ81)などのベンチャーにも在籍。現在は藤原投資顧問というシンガポールの投資会社に所属しながらIT批評家としても活動しています。

 途中でのリクルートへの出戻りを含めれば、全部で12回の転職をしているわけです。

 普通にみると人間のクズですね(笑)。でも、ぼくの誇りは、ほとんどの職場といまでも関係が続いていて、ちょっとしたことでも相談し合う間柄だし、自分もそのときは「われわれは」と自然に〝自分事〟で語れることです。

 こうした経験から、先ほどの(1)の意味での、「どこでも誰とでも働ける」方法については、誰よりも言語化して蓄積してきたと思います(そもそも、なぜこれほどまでに転職を繰り返してきたのかは後ほどお話しします)。

 また、ぼくはいま、(2)の働き方も実践しています。シンガポールやバリ島を拠点としつつ、日本に定期的に戻ってくるというのが基本のスタイルです。そして何かやりたいことができるたびに、ベルリン、シリコンバレー、深セン、ウクライナなど、世界中を自由気ままに訪れて仕事をしているのです。

 では、ぼくにしかできないような特殊な仕事をしているかというと、決してそうではありません。仕事の内容はプロジェクトマネジメントであったり、クライアントの相談相手になったりすることがメインです。プログラマーやデザイナーのようにアウトプットの形が明確な職種でもありません。ポリシーとして個別の企業への投資や出資はしていないので、投資収入なんて微々たるものです。つまり、日本のオフィスに勤務する会社員の人たちと、本質的には同じ仕事をしているのです。

 しかし、いまのスタイルで生活するようになって、およそ3年。不自由を感じたことは一度もありません。ネット環境が十分に整ってきた現在では、PCでのチャットやテレビ通話で、ほぼすべての用が足りるからです。

 ぼくのような働き方をする人はいま、世界中で増え続けています。

 英語圏では昔から国を越えて多くの人が移動していますが、最近は中国人やインド人の存在感が増しています。アジアの金融センターとしての地位を確立したシンガポールはもちろん、タイやベトナム、ミャンマー、ラオスなどの国には、今後の経済成長を期待して世界中から人が集まっています。彼らの多くは、企業の駐在員として滞在しているわけではありません。自らの意志と裁量で、そこで働く選択をしているのです。

 また、バリ島やマレーシアには有名な欧米のインターナショナルスクールも設立され、教育熱心な日本人も多く移住してきています。現地で働く人、母国(日本)での仕事をリモートで続ける人、両方をおこなう人、みなそれぞれです。もちろん、「どこでも誰とでも働ける」というのは、移住だけでなく、冒頭のスイス人たちのように「自分の国に留まる」という選択も含みます。

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 これまでの働き方を根底から変えようとしている「大きな変化」を、ぼくなりの言葉でお伝えすると次のとおりです。

変化1 社会やビジネスが、いっそうインターネット化する

 かつて糸井重里さんは、『インターネット的』(PHP研究所)という本で、インターネットの本質は「リンク」「フラット」「シェア」の3つであると、見事に喝破しました(この本の発売が2001年というインターネットの黎明期であり、糸井さんがITの技術者でないことを考えると、恐るべき洞察です)。

 その2001年と比べるとわかりやすいのですが、世界はものすごいスピードで「インターネット化」しています。社会の仕組みやビジネスが、どんどんインターネット上でおこなわれるようになってきているということです。

 世界がインターネット化することによる影響は無数にありますが、個人の働き方は、多くの人や企業と対等(フラット)の関係でつながり(リンク)、知識や成果を分け合う(シェア)形に進むことになるでしょう。むしろ、そうした働き方に適合する人でなければ、ビジネスの輪の中にいることができなくなっていくはずです。

変化2 これから仕事で活躍できるのは、プロフェッショナルだけになる

 インターネット化した社会やビジネスに適合し、「リンク」「フラット」「シェア」の働き方ができる人は、必然的に何らかの専門性をもったプロフェッショナルになります。

 ここで言うプロフェッショナルは、医師や弁護士のような伝統的な職種だけを意味しません。プロフェッショナルの語源は、自分が何者であるか、何ができて何ができないかを、自分の責任で「プロフェス(公言)」することです。自分で自分を律して成果を出し、それを相手にしっかり説明して、相手がそれを評価してくれること。この3つをおこなうことができれば、どんな職種であれ「プロ」と名乗ることができます。そして、ネットで自分の考え方ややったことをプロフェスしていくと、信頼がたまっていきます。

 そのようにして信頼される「プロ」になれば、「どこでも誰とでも」働くことができるのです。

変化3 会社と個人の関係が根底から変わる

 働く人の多くがプロフェッショナルになれば、必然的に会社と個人の関係は変化します。いままでの正社員を前提とした終身雇用的な関係から、フラットにつながりながら、利益をシェアする関係が主流になるでしょう。

 既存のインターネットだけでなく、AI(人工知能)やブロックチェーンなど、いままさに進行している技術革新もそれを後押しするはずです。また、『LIFE SHIFT ライフ・シフト』(リンダ・グラットン/アンドリュー・スコット 東洋経済新報社)という本で示された、多くの人が100歳まで生きる社会が現実になれば、80歳程度の寿命を想定していた従来の就職や転職の仕組みも大きく変わらざるを得ません。「最初の20年で学び、その後40年働き、残りの20年は引退生活で自分の趣味を楽しむ」という前提が大きく崩れるからです。

 ずっと学び、ずっと働きながら、自分の趣味を全うする、しかも変化する時代の中で、つねに自分も変化し続けることが求められるようになります。

「そういった世界の変化は、自分には関係ない」と思われるかもしれません。変化を実感されていない方も、まだたくさんいるでしょう。

 しかしそれは、いままで日本が2つの特別な壁で守られていたからです。そして、その壁はいよいよ崩れようとしています。

 壁の1つは、「島国という距離の壁」でした。この壁は、インターネットによって20年前から崩れ始めています。たとえばかつてアメリカ国内にあったアメリカ企業のコールセンターは、人件費がはるかに安いフィリピンやインドに移転しています。コールセンターにかけられた電話は、インターネットによって遠くのフィリピンやインドにつながり、受け答えがおこなわれるようになったのです。

 たしかにこれは、英語圏だから起きていることです。日本はまだ、「日本語の壁」によって守られているという人もいるでしょう。

 でも、この言葉の壁すら、AIが進歩し、同時翻訳がビジネスレベルでも可能になれば、崩れることになります。本文で紹介するように、それは決して遠い未来ではなく、10年以内に実現するでしょう。むしろ英語圏のようにゆっくりと移行しなかった分、みなさんは急激な世界戦に巻きこまれることになるのです。

 『どこでも誰とでも働ける』は、みなさんにこうした大きな変化を乗りこなせる人になっていただくための本、と言うこともできるでしょう。

 その下準備として、第1章では、ぼくがインターネット上と12の職場で磨いた「どこでも誰とでも働ける仕事術」をまとめました。冒頭では「どこでも誰とでも働ける」を2つの意味に分けましたが、「どんな職場でも求められる」人材になることを突き詰めれば、自然と、「働く場所も仲間も、取引先も自分で選べる」ようになるからです。

 そして第2章では、会社と個人の関係が変わりつつあるいま、知っておいていただきたい「人生100年時代の転職哲学」を、第3章では未来への備えとして「AI時代に通用する働き方のヒント」をお伝えします。

 これらの内容が少しでもみなさんの心に刺さり、仕事観や働き方のアップデートにつながることを、心から願っています。