『ブルー・オーシャン・シフト』の刊行にあわせ、日本でブルー・オーシャンを切り開いた企業を、書籍付録の日本ケース執筆を担当したムーギー・キム氏が紹介する本連載。新規市場を創造するという視点が必要なのは、企業だけに留まらない。第3回は認定NPO法人フローレンスの事例を取り上げる。

子どもが熱を出したら、会社をクビ!?IT起業家からNPO代表への転身

 子どもが37.5度以上の熱を出したら、保育園では預かってもらえない。頼れる実家が近くにあるわけでもなく、夫婦どちらかが簡単に会社を休めるわけでもない場合、病気の子どもの預け先を探すのは、非常に困難で、死活問題にもなる。

 認定NPO法人フローレンスの創業者・駒崎弘樹は慶応大学在学中にウェブシステムなどを制作するITベンチャーを立ち上げた起業家だ。そんな駒崎だが、ベビーシッターをしていた自身の母親から、子どもの病気の為に欠勤が増え、仕事を辞めざるを得なくなった母親の話を聞き、強い憤りを覚えた。それが原体験となり、病児保育に取り組むフローレンスを2003年に立ち上げる。

 ここで言う病児とは、風邪やインフルエンザなどで熱を出した程度の疾患で、慢性疾患ではない病気の子どものことを指す。子どもは3歳くらいまではよく熱を出すが、保育園は熱が37.5度を超えると預かってもらえない。そんなとき、働く母親が子どもを預ける先がなくて困る。そんなときに対応するのが病児保育である。

「赤字は当然」が常識の病児保育業界に広がるブルー・オーシャン

 病児保育を開始するにあたり、慶応SFCキャンパスの榊原清則教授の元で経営学を学んだ駒崎は、どんなものにも必ず市場があるはずだと考え、既存のプレーヤーを探した。すると一部の地域には病児保育の施設があることを知る。それらの多くは小児科医院や保育園に施設が併設されており、自治体から補助をもらって運営していた。

 補助金の額は年間600万円程度。しかし、補助金を支給されると、たとえば定員は4名、1日預かっても保護者への請求は2000円までなどと行政の規定によって制約を受ける。そのため、補助金をもらうって事業を行うと、必然的に赤字になる仕組みになっていた。

病児保育事業を行う既存プレーヤーは、みな別に本業を持ち、赤字を承知で病児保育をするのが常識だったのだ。