自動車、小売、流通、電機、金融、メディア、広告……すべての業界で今、起こり始めている新旧企業の激突。企業から個人まで、「破壊するか、されるか」の時代をどのように生き抜くべきか? グーグル、ソフトバンク、ツイッター、LINEで「日本侵略」を担ってきた戦略統括者・葉村真樹氏の新刊『破壊――新旧激突時代を生き抜く生存戦略』から、内容の一部を特別公開する。落合陽一氏推薦!

破壊するか、されるか
――人類の歴史はディスラプションの連続

 今の仕事の半分が10~20年後にはなくなる。そのような話を耳にしたことのある人も多いだろう。現在20代、30代の人にとっては、今後の人生を考えると由々しき問題だろう。

 40代以降の人であれば、何とか逃げ切れるかなと思うかもしれない。しかし、そんな人だって安心はできない。仮に働くのが残り10年ほどであったとしても、今後も今と同じ賃金をもらえる保証は何もない。そして万一逃げ切れたとしても、子供を持つ人であれば、今ちょうど子供たちが高校や大学に進学する頃だろう。

 彼らは一体、どのような教育を受けて、何を目指すべきなのか? これは子を持つ者、これから持つ者全員に共通する悩みかもしれない。

 オックスフォード大学のマイケル・A・オズボーンが、米国労働省が定めた2010年時点に存在している702の職業を対象に、10年後の消滅率を試算したのは、既に5年前の2013年9月のことだ。

 このときの分析では、今後10年ないし20年の間に、2010年に存在している米国の労働人口の47%、英国では35%に該当する仕事がコンピューターに取って代わられる可能性が高いとした。

 その後、オズボーン准教授は日本についても野村総合研究所と共同で同様の分析を行ったが、そこでも仕事(2012年時点に存在した仕事)の49%が10年ないし20年の間に消滅するとした。

 具体的にどのような仕事が消滅するかについては、上記の論文や分析に譲るとしても、それだけの仕事が消滅するということは、その仕事を提供している企業も当然のごとく消滅の危機にあるということが言える。新刊『破壊――新旧激突時代を生き抜く生存戦略』では特にこの点に着目した上で、まずは産業・企業レベル、そして個人レベルでの今後の生き残り戦略について考えてみたい。

「ゾゾタウン」のスタートトゥデイの時価総額が
三越伊勢丹の倍以上になった理由

 2017年、百貨店の閉店が相次いだ。セブン&アイ・ホールディングス傘下のそごう・西武が西武筑波店と八尾店を閉店したのを皮切りに、業界最大手の三越伊勢丹ホールディングスが三越千葉店、多摩センター店を閉店した。バブル経済最後の年である1991年に市場規模およそ10兆円とピークをつけた百貨店業界は、25年後の2016年には6兆円を割り込む規模へと縮小している。

 その市場縮小は様々な要因が絡み合っていると考えられるが、百貨店の主要取扱品であるアパレルに限っても、eコマースの市場規模は2016年でおよそ1.5兆円。25年前にこの市場はゼロであったことを考えると、その影響は否定できない。

 そして、これを象徴する出来事として、2017年8月1日、アパレルeコマースサイトの「ゾゾタウン」を運営するスタートトゥデイが時価総額で1兆580億円と、1兆円を突破したことが話題となった。

 スタートトゥデイが10年前の2007年12月のマザーズ上場時、時価総額(初値)が319億円と現在の30分の1だったことを考えると、市場の期待度がわかる。

 ちなみに、スタートトゥデイの2017年3月期の売上高は763億円、三越伊勢丹ホールディングスの同期売上高は1兆2534億円であり、その6%の規模に過ぎない。しかし、時価総額ではスタートトゥデイは1兆580億円と、三越伊勢丹の4276億円(2017年8月1日時点)の倍以上の規模となったのである。

 市場は、現在の企業としての売上に代表される経済規模よりも、既存の産業を破壊し、新たな産業を興す企業として、スタートトゥデイの将来性を高く評価していると言えよう。

 このように、既存の産業を破壊=ディスラプト(disrupt)し、消費者にとってより利便性高く拡大するイノベーションを起こし、新たな産業を創造する者をディスラプター(disruptor)と呼ぶ。