ピープルアナリティクスが変える「健康経営」髙木 徹也
PwCコンサルティング
シニアアソシエイト

2013年にPwCコンサルティング入社。人事業務改革や人事システムの構想策定・要件定義・開発導入等のコンサルティングに従事。また、人事領域に留まらず、シェアードサービスセンター事業戦略実行支援や新規事業立案、法改正対応など、幅広いプロジェクト経験を有する。ピープルアナリティクスの領域においては、2015年よりPwC Japan内でのサービス開発に中核メンバーとして従事

 近年、働き方改革と併せて、「健康経営」という言葉を耳にする機会が増えたように感じる。

 健康経営とは、日本政策投資銀行の定義によると「従業員の健康増進を重視し、健康管理を経営課題として捉え、その実践を図ることで従業員の健康の維持・増進と会社の生産性向上を目指す経営手法」のことである*1。専門スタッフによる保健指導などに代表されるような従業員の「健康維持・増進」に向けた取組みは、各企業で以前より行われていた一方で、「生産性向上」を強く意識した取組みをしている企業はさほど多くなかったように思われる。しかし今日、働き方改革が進められる中で、健康の維持・増進を通じて1人ひとりの従業員の生産性を向上させるという健康経営の考え方が以前にも増して注目され始めている。

 国内の労働力を取り巻く状況に目を向けると、高齢化社会の進行に伴い、2030年の労働力人口は「経済成長と労働参加が適切に進まない(注1)」場合、2014年対比で10%以上減少すると見込まれる*2。さらに、過去5年間で「メンタル面での不調を理由として休職する従業員が増えている」と回答する企業が半数近くに上るといった調査結果も存在している*3。一人ひとりの従業員の労働力を適切に維持できなければ、企業活動の持続が困難になる時代が訪れつつあり、企業にとって従業員の健康管理は、今後ますます重要な課題になっていくと思われる。

 今後その必要性がさらに高まると考えられる「健康経営」に対し、本連載で取り上げてきた「ピープルアナリティクス」をどのように活用できるのか。本稿ではその可能性について述べたいと思う。

1.企業の健康管理を取り巻く現況と課題

 企業活動において重要な要素となりつつある従業員の健康管理であるが、現状として、どのような取組みがなされているのだろうか。企業の健康管理を取り巻く現況について、考察を加えながら紹介していきたい。

(1)健康診断

 企業における健康管理の取組みとしてまず思い出されるのは、おそらく健康診断であろう。労働安全衛生法に基づき、企業は従業員に健康診断を受診させることが義務付けられている。

 健康診断は、個々人の健康状態を明らかにする上で非常に有効な方法である一方で、基本的には1年に1~2回の実施であることから、どうしても情報の鮮度に課題が残る。また健康診断では、顕在化した健康上の異常を発見することが可能である一方で、顕在化する前の段階で、異常の予兆(痛みなどの日常的な不調)や原因(運動不足・食生活の乱れなど)を検出する仕組みが十分であるとは言い難い。