昨年から始まった米国の「ウォール街占拠運動」は、世界中に広がりを見せた。5月にシカゴで開かれるG8サミットへ向けて、再び運動が盛り上がろうとしているともいわれる。この運動は、ごく一部の人々が、社会の富のほとんどを占有している社会構造への抗議である。日本でも、非正規社員の増加などを受け、格差に対する問題意識が高まっている。

ビジネススクールは、富を占有する側の人々を育成してきたのでないかという批判にもさらされている。日本を代表するビジネススクールである慶應義塾大学ビジネス・スクール(KBS)の河野宏和校長がホスト役となり、米トップビジネススクールの一つであるダートマス大学タック・スクール・オブ・ビジネス(Tuck)のポール・ダノス校長とともに、ウォール街占拠運動を手掛かりに、企業経営者の役割、ビジネススクールの教育のあるべき姿を縦横に語り合った。

KBS、Tuck、エセック大学経済商科大学院大学(仏)、マンハイム大学ビジネススクール(独)、復旦大学ビジネススクール(中)の5校は、昨年来「ビジネスと社会に関する評議会(The Council on Business and Society、CoBS)」を設立し、多文化の知的資源を結集して、産業社会の課題解決に向けた活動を活発化させている。

ウォール街占拠運動は
何を問いかけているか

河野 Occupy Wall Street(ウォール街占拠運動)を、どのような現象だと捉えていますか?

ダノス Occupy Wall Street運動は、2008年の金融市場の破綻をきっかけとする市民の生活への懸念から始まりました。若者を中心とするアメリカ人がアメリカ全土の様々な場所を占領し、特に昨年からは非常に張り詰めた状況になっています。私の大学のキャンパスにも、テントなどを張り、様々なプロパガンダ・メッセージなどを掲げているグループがいます。