ヒット商品の裏には必ず「インサイト」あり。消費者がモノを思わず買いたくなってしまう心のスイッチ――「インサイト」を活用し、新しい市場を切り拓く方法とは。国内での新規事業の創出だけでなく、インドや中国といった海外進出の際に実際に使われた方法もまとめた新刊『戦略インサイト』。本連載ではそのエッセンスや、マーケティングに関する最新トピックを解説していきます。

今回は海外の市場に目を向けて、事例を見てみましょう。ここでは、「インドにおける紙おむつ市場の開拓」を題材に、どのように考えるかをシミュレーションしていきましょう。

インドは、各国間の比較で見た場合、経済成長度合いに比べて、紙おむつ市場が小さい国です。経済成長にともなって、もっと紙おむつは消費されていてもおかしくない。そうとらえれば、インドの紙おむつ市場は、もっと拡大する余地・ポテンシャルがあると考えられます。

しかし、市場規模を何倍まで拡大する、売上を何倍まで伸ばす、という売上目標を設定するだけでは、戦略が見えてきません。市場規模が小さいのであれば、その理由が必ずあります。

なぜ、インドでは、紙おむつ市場は小さいのか?言い換えれば、インドの消費者は、なぜ、紙おむつを使わないのか?今は、何をどのように使っているのか?を知る必要があります。そして、インドの消費者の意識や行動をどのように変えれば、市場を拡大できるのか?を考える必要があります。その消費者の意識や行動をどのように変えるのかという目標を設定することが、マーケティングの目標設定なのです。

では、インドの消費者は、なぜ紙おむつを使わないのか、を見ていくことにしましょう。

紙おむつはなぜ月1枚なのか

インドでは、中間層(B層・C層)に分類される人たちでも、多くは、赤ちゃんに「ふ
んどし」タイプの「布おむつ」を使っています。(図参照)「紙おむつ」は、月に1回くらい、たまに使うものなのです。「月に1回だけ紙おむつを使うって、どういうときに使うんだろう」と思いますよね。

「インサイト」でインドのおむつ市場を開拓する

インドでは、紙おむつは、外出するとき、布おむつを頻繁に替えられない、また漏れると困る状況のときにだけ使うのです。例えば、結婚式に参列するとき、赤ん坊を連れていかなくてはならないお母さんたちは、紙おむつを使います。ご存じの方も多いかと思いますが、インドの結婚式は贅を尽くして長時間行いますから、布おむつだと何度も取り替えなくてはなりません。

紙おむつなら、吸収力があるので、出掛けるときに着けておけば、途中で取り替えなくても大丈夫なわけです。(ちなみに、インドでは、紙おむつは、これ以上吸収できないくらいパンパンに膨らむまで使い続けるので、取り替える必要がありません)紙おむつは、特別なときだけに使うピンチヒッターのようなもので、日常的に使うものではないのです。その結果、インドでの紙おむつ市場は非常に小さいのです。

もし、月1枚の使用が、毎日1枚の使用になれば、市場は30倍になります。先進国のように、1日7枚使うようになれば、市場は210倍になることになります。では、まず毎日1枚ずつ使ってもらうことはできないだろうか、を考えてみるのが、マーケティング目標の設定です。単に、売上を何倍にするというのは、事業目標であっても、どういうマーケティングを行うことでその売上を達成するかという戦略のシナリオがありません。

仮に、とにかくいい製品(いい製品とは何かという視点が欠落していますが)を低コストでつくって、流通経路を増やし、大量の広告を投下してシェアを高めることにした場合、次のような問題が生じます。

まず、小さい市場のパイの取り合いになると、価格競争のレッドオーシャンに飛び込むという危険性があります。そして、お金にものを言わせる体力勝負になると、大きな資本力が不可欠です。

資金力に限りがあり、後発で参入する企業が成功するためには、いかに効果的・効率的に市場を開拓できる製品を開発し、自社ブランドのプレゼンスを高めるかを考えた、成長戦略のシナリオが必要となるのです。