ライフスタイルとワークスタイルの多様化が進むなか、オフィスのあり方にも変化が求められている。そこで、”ファシリティマネジメント(以降、FM)”に詳しいワークプレイス戦略コンサルタントの古阪幸代さんにオフィス戦略のトレンドと未来予測を伺った。

FMの新しいトレンドは
「ABW」と「テレワーク」への対応

 FMを巡る新しいトレンドに、仕事の効率性や創造性にポイントを置いて、仕事場所をフレキシブルに選ぶ「ABW(アクティビティ・ベースド・ワーキング)」がある。

「ABWでは個人作業に集中したい時には静かな場所、コラボレーションする時にはソファー席やカフェスペース…と、従業員が仕事状況に合わせて、それにふさわしい場所に移動します。仕事の効率を上げるだけではなく、異なる部署間でのコラボレーション機会も増え、イノベーションを誘発する効果が期待されています」(古阪幸代さん。以下同)

 ただし「ABW」は、自席を離れること=サボっている、と受け止める中間管理職がいる職場での導入は難しい。ファシリティと従業員の働き方の管理・運営を担当する「ファシリティマネジャー」には、そのあたりの意識改革を促す役割が求められる、と古阪さんは話す。

ビジネスが加速する時代に適したオフィスとは?トレンドを予測古阪幸代
働き方改革・ワークプレイス戦略コンサルタント。フルリエゾン代表、WFM(Women’s Facility Management)代表。コーネル大学FM専攻修士課程修了。富士銀行(現・みずほFG)、日本NCRを経て、1999年コンサルタントに転身。Gensler ストラテジックプランニングディレクター、インターオフィス社長、明豊FW執行役員コンサルティング部長、三機工業ワークプレイス戦略専門部長を歴任し、2015年より現職。文部科学省、日本ファシリティマネジメント協会(JFMA)、日本オフィス学会等の各種委員を務める

 また、オフィスと働き方の変化に伴って、人事管理や評価制度の変革も必要になる。政府が働き方改革の一貫として推進する「テレワーク」はまさにその好例と言えるだろう。ICT(情報通信技術)を活用するテレワークは、ダイナミックなABWであり、在宅勤務やサテライトオフィス勤務(施設利用型勤務)など、モバイルワーク全般を含む。

「テレワークを実施する場合、情報セキュリティや人事管理、評価などの制度やしくみの整備が欠かせません。労務管理アプリなどを使って、パソコンの電源をオン・オフした時刻や、ワードやエクセルに何文字記入したかを測っても、創造性や効率性を期待する本来のテレワークの評価とは言えないでしょう」

 さらには、目が届くところにいなくても、部下を信頼し、かつ管理・評価する手腕をもつ中間管理職が求められる。

「某大手IT企業では、以前からテレワークの制度やシステムが整備されていたものの、人事管理が難しいという中間管理職の抵抗で活用が進んでいませんでした。それが東日本大震災の発生時にやむにやまれず実施したところ、難なく機能した。その結果、一気にテレワークを推進されるようになりました」

 企業によっては案ずるより生むがやすし、という場合もあるようだ。