6月のFOMC(米連邦公開市場委員会)では市場参加者の予想通り0.25%の利上げが決定されたが、最大の注目を集めたのは、FOMCメンバーによるFF(フェデラルファンド)金利見通しの分布を示したドットチャートであった。

 2018年末のFF金利見通しの中央値が前回(3月)より引き上げられ、年内4回利上げがメーンシナリオとなったが、米国債利回りを考える上で重要なのはFF金利の「長期見通し」であり、その「長期見通し」に対して、今回の利上げステージにおける利上げの回数が、どれだけ多くなるかである。

 6月のドットチャートでは、「長期見通し」が3月と全く変わらず、他方、3月時点でばらつきが見られた19年から20年のFF金利見通しが収斂し、FOMCで「FF金利長期見通しを1回分上回る利上げをもって今回の利上げステージは終了」というコンセンサスが出来上がったことをうかがわせた。

 本来、「長期見通し」は利上げのゴールとの位置付けであるが、トランプ減税による景気の上振れとそれに伴うインフレ圧力の鎮静のために、1回余計に利上げをしようとのスタンスであろう。

 一部で「18年4回利上げ」に反応する向きもあったが、米国債市場は冷静な動きを見せ、10年債利回りは3%にワンタッチした後、2.9%台で取引終了となった。

 SMBC日興証券が純粋期待仮説(長期金利は短期金利の将来予測により決まるという考え方)に基づいて試算した米国債カーブとFOMC後の米国債カーブを比較すると、今回のカーブは「FF金利長期見通しを1回分上回る利上げをもって今回の利上げステージは終了」を前提とした想定カーブとほぼ一致している。

 5月に3.1%を上回り、3.5%以上の水準まで上昇するとの声も上がった米国10年債利回りだが、今回のFOMCの結果、適正な居所を見つけたともいえそうだ。

 今次のドットチャートは18年に実質で2.8%という高い経済成長を遂げることを前提に作られたものだ。今後、米国経済が予想通り高い成長率を記録するのか、あるいはそれ以上、それ以下になるのかによってドットチャートも変化し、その変化を先取りする形で米国債市場の利回りが上下に変動することになろう。

 足元ではトランプ減税効果で米国の個人消費が堅調な一方、米国長期金利上昇とドル高の下で新興国市場への不安が急速に高まっている。どちらの勢いが勝るのかによって米国経済の先行きも変わってくる可能性が高いが、現時点では中国や新興国の不安が米国に伝播し、米国経済モメンタム鈍化と米国長期金利低下が生じる可能性がやや高そうだ。

(SMBC日興証券チーフ為替・外債ストラテジスト 野地 慎)