アドラー心理学の教えを哲人と青年の対話形式でわかりやすく解説して大ベストセラーとなった『嫌われる勇気』(176万部)と『幸せになる勇気』(50万部)。このたびその2冊が、豪華男性声優が朗読するオーディオブック・シリーズ「極上voiceメソッド」で発売されることになりました(『嫌われる勇気』は発売中、『幸せになる勇気』は7月27日発売予定)。
そこで、哲人を演じた声優の井上和彦さんと青年を演じた細谷佳正さんのお二人に、同作品についてお話を伺いました。後編は、本の内容からお二人が受けた影響など、とても深いお話になっています。(写真:田口沙織)

読むなかで最も印象に残った
アドラーの教えとは

──アドラー心理学は『嫌われる勇気』が出るまで日本ではそれほど知られていませんでした。アドラー心理学の考え方で印象に残ったのはどのようなところでしょう?

「人生の指針になった」と<br />朗読した声優が語るアドラーの教え細谷佳正(ほそや・よしまさ)
声優
1982年生まれ、広島県出身。『メガロボクス』『この世界の片隅に』『機動戦士ガンダム 鉄血のオルフェンズ』『刀語』『進撃の巨人』などのアニメでメインキャラクターを務めるほか、映画・ドラマの吹き替え、ゲーム、ナレーションなどでも活躍。

細谷佳正(以下、細谷) すべてと言えるほどたくさんあるんですが……。僕には、自分の人生に最終的に責任を取るのは自分しかいない、ということを強く実感した時期があったんです。そのあとでこの作品に出会ったので、本当にすべてが印象的なんですよね。とくに「課題の分離」や「自らの人生は自らの手で選ぶ」といった考えにはすごく背中を押されました。これまでの僕の人生では、実際に試さずに決めかねているような状態が多かったんです。これをやったら嫌われるかもしれない、孤独になってしまうかもしれない、そうなるのを恐れて波風が立たないように生きてきた。それって、決めていないからですよね。
 でも、こうやると決めたら別に嫌われても構わない──そんな考え方があって、しかもそれは自分が自分の判断で自分の人生を歩み出したことなんだと書いてあるのを読んだとき、これだと思ったんです。自分の中で言語化できたことで、凄くはっきりしました。もちろん、100%この教えどおりにするのは簡単ではないかもしれないし、下手にやると青年みたいになりかねない(笑)。やはり状況や相手のことも考える必要はあります。でも、この本を読んだおかげで、僕は一人になることにあまりストレスを感じなくなりました。

「人生の指針になった」と<br />朗読した声優が語るアドラーの教え井上和彦(いのうえ・かずひこ)
声優
1954年生まれ、神奈川県出身。73年のデビュー以来『キャンディキャンディ』『サイボーグ009』『美味しんぼ』『NARUTO ナルト 疾風伝』『夏目友人帳』など数多くのアニメ作品に出演。映画吹き替えやナレーション、舞台・映像作品への出演など多岐にわたって活動。

井上和彦(以下、井上) 僕は40歳くらいまで、つまり細谷くんよりもう少し上の年齢くらいまでは、わりと人生において逃げてばかりいたんです。ちょっと嫌なことがあるとスッと逃げる。自分の間違いを指摘されても、認めるのが嫌で逃げることが多かった。けれど40歳を境に、もう逃げるのはやめよう、全部受け止めて生きようと決めました。そうしてこの本に出会ったら「あっ!」て。なんだか自分が考えたのと同じようなことがいっぱい書いてあるなって。かつての僕は逃げるのが一番楽だと思っていました。でも本当はそうではなく、ちゃんと向き合っていくほうが一番心にストレスが掛からない。アドラーの教えからそれを再確認できた気がしています。

──40歳のときに転機があって、いまに至るまでの歩みがこの本の教えとシンクロした感じなんですね。

井上 そうですね。それから、「過去はない」「過去は自分で改竄しているんだ、都合のいいように」という部分も「うん、なるほど!」って(笑)。たしかに自分に都合のいいように盛っていますよね、ずいぶん(笑)。そう解釈しないと辛いことはあるかもしれない。でも本当の過去はそうじゃないと認められれば「あそこが悪かった」「ここをもっとこうすればよかった」というのが見えてくるはずです。その意味では、これからどう生きていくかを考えるうえでも大いに参考になりました。

細谷 本当に参考になりました。経験して自分が学んだことって、はっきり言語化できるものとは別に、言語化できなくて感覚として自分の中にあるものがありますよね。その感覚を客観的に見たとき「これなんだろう?」って思うことが僕にはあるんです。その感覚みたいなものを、この本は言葉にしてくれていました。言葉にすると反芻できるし、それを指針にもできる。分からないところが分からなかったのが、ここが分からなかったんだというのが明確に分かった、そんな感じがありました。