「100%利用者に還元します」。国内航空会社が妙手で減税要求に打って出た。空港の建設や維持管理に使われる航空機燃料税(航燃税)の負担を一時的に減らし、この減税分を、燃油費高騰による運賃値上げを抑制する原資にしたいと要望しているのだ。

 全日本空輸(ANA)の山元峯生社長は7月の会見で、国内航空会社が加盟する定期航空協会が燃油高に対する緊急措置として、航燃税の暫定的軽減を国に要求していることを明らかにした。航燃税は国内線において航空機に積み込んだ燃料の量に応じて航空会社に課されるもので、税率は燃料1キロリットルにつき2万6000円。年間の徴収額は約1000億円で、航空業界が要求するのは負担半減。つまり500億円の減税である。

 ANAの4月の運賃改定を見ると、羽田~福岡線の普通運賃(片道)は3万6700円となり、3000円値上げされた。燃油費高騰に伴い、来年もこのペースで値上げすれば航空需要の減退は避けられない。

 とはいえ、原油高で打撃を受けているのは航空会社だけではなく、陸送など他の運輸業や製造業などさまざまな業界がコスト増に悲鳴を上げている。全国一斉休漁という業界のアピールに折れ、漁業者に燃油高騰分を補填する支援策を固めた政府に対しては、特定業種への特別扱いであるとして不満、非難が殺到している。

 「単純に『うちの業界だけお願いします』では理屈が通らない」(航空会社関係者)だけに、航空業界は航燃税に目をつけた。航燃税は空港整備勘定(旧空港整備特別会計)に繰り入れられる特定財源。道路特定財源における“ガソリン税”と同じ位置づけだ。乱立する空港の整備に使われる同税への納付額を一時的に減らし、利用者の運賃負担軽減の費用に回すのであれば、国民感情的に受け入れられやすいというわけである。

 ただ、国土交通省の壁を崩すのは容易でない。7月末に冬柴鐵三大臣は「(航燃税の)軽減は困難」と発言。国交省にすれば、航燃税の減免を財務省に要請すると、空港整備勘定に対する真水(一般財源)の投入までも減らされかねず、減免を機に財務省から航燃税の一般財源化を狙われる懸念もある。

 一方で、航空業界は「国交省に拒否されても、与党税制調査会に持ち込んで勝ち取ってみせる」(航空会社関係者)と一歩も引かない構え。折衝は長期戦となりそうだ。

 最終的に来年度税制改正で500億円の減税が認められても、単純計算で利用者1人当たりの還元額は片道500円。歴史的な原油高騰下では「焼け石に水」の感はある。

 だが、それでも業界として努力の姿勢は社会にアピールできる。生き残りを賭けて航空各社は今年度に続き、来年度も路線の減便や休止を打ち出す見通し。反対する地方との交渉や、さらなる運賃値上げ実施の可能性を含めて考えれば、深謀遠慮の減税要求ともいえそうだ。

(『週刊ダイヤモンド』編集部 臼井真粧美)