オリンパスがAI(人工知能)、ICT(情報通信技術)、ロボティクスなどの技術革新を前に自前主義と決別した。その裏にはカメラ事業で直面した「iPhoneショック」のトラウマがあった――。『週刊ダイヤモンド』7月21日号の第1特集「製薬 電機 IT/ 医療産業エリート大争奪戦」の拡大版として、産業のキーマンたちのインタビューを特別連載でお届けする。第1回は国内医療機器最大手オリンパスの小川治男CTO(技術統括役員)に聞く。(聞き手/「週刊ダイヤモンド」編集部 臼井真粧美)

小川治男・オリンパスCTO(技術統括役員)小川治男・オリンパスCTO(技術統括役員) Photo Masato Kato

――オリンパスの昔ながらの一般的イメージはカメラの会社。実際の姿を一言で表現すれば「医療機器メーカーの国内最大手」です。

 2018年3月期売り上げは医療事業(内視鏡、外科、処置具)が6100億円で、映像事業(カメラ、レコーダ)はたった600億円。10年前は医療が3500億円で映像が3200億円。片や2600億円増えて、片や2600億円失いました。

 10年前には映像の営業利益は330億円あって、私は立て直しをした商品戦略本部長として、結構良いボーナスもらいました。まさにその頃、2007年1月だったと記憶しています。米アップルのスティーブ・ジョブズが初代「iPhone」を発表した。これはヤバいと思いました。

――実際、カメラ市場を揺るがすものになりました。一方で医療部門が伸びていきました。

 医療だったらなんでも伸びるということではなく、内視鏡が持つ「早期発見」と「低侵襲治療」(患者の体に対する負担を減らした治療)という2つの価値がニーズにマッチしました。

 日本の医療費は42兆円を超え、その30%以上が入院医療費。開腹手術をすればそれなりの入院期間が必要になりますが、腹腔鏡手術(開腹せずにお腹に穴を小さな空けて器具を挿入する手術)で数日入院、内視鏡治療(口や肛門などから器具を挿入して内科的に患部を切除する治療)ではだいたい即日退院ができて、医療経済性が非常に高い。望まれていることに応えたんです。