TBSラジオ『Session-22』でパーソナリティを務め、日々、日本の課題に向き合い続けてきた荻上チキによる新刊『日本の大問題――残酷な日本の未来を変える22の方法』が7月19日に刊行された。【経済】【政治】【外交】【治安】【メディア】【教育】――どこをみても「問題だらけ」のいまの日本の現状と、その未来を変えるための22の対応策がまとめられた同書のエッセンスを紹介していきます。

就学前教育はなぜ重要か

 日本では、義務教育が始まるのは小学校からです。ですから、5歳までは「各家庭で勝手に育ててください」と子育てを家庭に丸投げしています。就学前の教育や保育に対して、国はほとんどお金を出していません。その分、この時期はとても格差が生じやすく、それによって階級の固定化にもつながっていく。
 いったいなぜ、日本は世界で有数の「子育て丸投げ国家」になってしまったのか。その背景にあるのが、日本に根強く残る家制度や家父長制の意識です。

格差が最も広がるのは「就学前」という真実就学前教育の公・私支出額(GDP比)

 たとえば結婚をして子どもを育てる場合、「家族が子どもを育てるのが当たり前」「妻が子どもを育てるのが当たり前」という前提が制度に埋め込まれてしまっている。その結果、新しい家族を作ることを躊躇している人たちがたくさんいるわけです。

 そこには、子育ては社会で行うものだという発想がまったくありません。
 でも、子どもを安心して産める社会にしたいのであれば、子どもを預けやすい制度や育児のために休職しても復帰しやすい制度があったほうがいいに決まっています。

 こうした制度を整えることは、社会全体にとっても決して損になりません。むしろ、他国より脆弱である現状では、そこに本腰をいれれば伸び代が大きいということが目に見えているのですから、さっさとやるべきです。

 子育てしづらい社会は、当然、女性が働きにくい。女性が働きにくいということは、今の人口減少の日本においては、労働者を獲得できないことにダイレクトにつながります。そういう企業は人手不足を解消できないので、業績も下がってしまいます。
 一企業の立場からみても、子育てしやすい社会のほうが生産性は高まるのです。