前回の記事「勉強ができる・できないは、遺伝や才能ではなく○○で決まる。」が大反響を呼びました。では、遺伝や才能ではなく、「〇〇=環境」で決まるとしたら、どのようにすればよいのでしょうか。その一部を紹介いたします。
46年間、教育一筋――都立中高一貫校合格者シェア52%で業界1位、都立高合格者数1位を獲得した東京都随一の学習塾「ena」の学院長である河端真一氏の最新刊『3万人を教えてわかった 頭のいい子は「習慣」で育つ』がいよいよ発売。結果を出すことで証明してきた、その教え方・学ばせ方は、まさに、最強にして最高の子育て論であり、塾教師としての立場でできることではなく、家庭にいる保護者ができることをまとめたのが本書です。
本連載では、子どもたちにとって貴重な時間を保護者としてどう接するか、保護者の対応次第で子は変わるということを実感していただき、今すぐできることを生活に取り入れてください。この夏休みからぜひ取り組んでほしいことを、本書から一部抜粋し、やさしく解説していきます。

学習環境をよくするのは、保護者の最低限の務めである

「孟母三遷」という故事があります。昔の中国の思想家・孟子の母親が、孟子の学習環境をよくするために三度も引っ越しをしたエピソードに由来します。

 私はこの孟子の母親に大いに共感を覚えます。前回、説明した通り、子どもの学力は生まれ持った能力ではなく、環境で決まってくるからです。

 ですから子どもの教育のためなら、孟子の母のようにいい環境を追い求めて何度も引っ越ししてもいい。それが保護者の役目だと思います。

 具体的に「学習環境をよくする」とはどういうことでしょうか。いくつかの視点がありますが、まずは、マイナス面があればそれを排除してあげることです。

 最も大きなマイナスの環境といえば、イジメです。

 長年教育に携わっていて感じることは、イジメは大人が思っている以上に広範囲に子どもの世界に存在しているということです。学力の高さには関係なく、どの学校でもイジメは起こり、どんな子でもイジメに遭う可能性があります。

 イジメの兆候は、子どもをよく見ていればすぐにわかります。

 たとえば子どもが突然、「学校に行きたくない」と言い出したとか、学校に行っているはずが公園で遊んでいたとか、そういう言動が見られるようになったら、それはイジメが原因と考えるべきです。

 そんなときに子どもに聞いても、決して「イジメられている」とは答えてくれません。いくら問い詰めても子ども自身は隠し通すのが普通です。

 そこで見逃してしまっては問題解決できないので、保護者が出ていくしかありません。

 学校に行って先生に状況を聞く必要があります。時には1人だけで授業を参観してもいい。大騒ぎをしないといけないのです。

 学校に相談しても、らちが明かないときがあります。改善を求めても、らちが明かないときは、学校を移ることも選択肢の一つです。学校を移るのは手間がかかることですが、放っておいたら子どもが死んでしまう。それくらいの覚悟で環境を変えてあげるべきです。

 塾についても、子どもに適していないのなら転塾していいと思います。ただし、塾は子どもに暇な時間を与えないので、イジメは起こりにくい環境といえます。

 塾を変わる理由は、学力の問題です。せっかく塾に通わせているのに成績が上がらなかったら意味がない。先生に成績が上がらないことを相談し、それでも効果がなければ転塾も考えるべきです。

 もう一つ、マイナスの環境を排除するということでいえば、友だち付き合いです。

「朱に交われば赤くなる」といいますが、まさに子どもは友だちから多大な影響を受けます。また、安易なほうに流されるのが子どもの性質です。

 友だちがスマホやゲームで遊んでばかりいれば、自分も同じように振る舞うことが当たり前になります。悪い友だちと仲良くなれば非行に走ることもあります。

 悪い友だちに引っ張られないためには、保護者が気づいて諭してあげる必要があります

 その兆候も子どもの様子をいつも見ていればわかります。

 子どもを常に観察するために、高校生くらいになっても、「日曜日の夜は必ず全員で夜ご飯を食べる」とか「門限は8時」などのルールを作り、きちんと守らせるようにしましょう。

 住宅の構造も問題です。子どもが学校から帰って自分の部屋に直行できる構造であれば、イジメを見逃すこともあります。玄関から入ってすぐのところに階段のある家は教育にいいとはいえません。

 さて、マイナスの環境を排除することについて説明してきましたが、プラスの環境を整えることもぜひやっていただきたいと思います。

 具体的には、子どもが憧れるような人たちを連れてきて、関係を深めさせるということです。

 親戚の子や近所のお兄さん、お姉さん、もちろん大人でもかまいません。子どもにとってお手本となる人、「格好いいな!」とまねしたくなるような人と対面させ、仲良くさせるのです。

 たとえば、子どもが第一希望にしている中学校の出身で、憧れるような大学に通っていて、スポーツも頑張っていて……というお兄さん・お姉さんがいればベストです。生きた模範となって子どもにいい影響を与えてくれるはずです。

 親戚の子や近所の人にいなければ家庭教師や、塾でアルバイトをしている大学生がその役割を果たせることもあります。

 そういう人を連れてくるのも、保護者の大事な仕事の一つと思ってください。

【POINT】

子どもの学力は生まれ持った能力ではなく、
環境で決まってくるので、いい人との出会いをつくる。