リーマンショックやチャイナショックなど、多くの投資家が損失を拡大するような状況でも、常に圧倒的なパフォーマンスを実現し続けたヘッジファンドマネージャーの塚口直史氏による連載。話題の新刊『一流の投資家は「世界史」で儲ける』の内容を中心に投資家にとって有益な情報だけをお伝えしていく。

投資家が「世界史で儲ける」ための3つのキーワード

今世界で起こりつつある「脱グローバル化」

 アメリカのトランプ政権は、経済の舵取りを大きく保護主義に転換しようとしています。

 それを象徴するのが世界貿易機関(WTO)や北米自由貿易協定(NAFTA)、環太平洋パートナーシップ協定(TPP)といった国際協調貿易の枠組みを弱体化しようとする動きです。

 そうした動きを背景に、今世界では「グローバル化」から「脱グローバル化」への地殻変動が起きつつあります。

 1980年代以降の世界経済は、国際分業体制を軸として成長してきました。その結果、貿易や金融を通じて世界がつながり、各国の分業体制の中で人々が世界の動きとリンクしていくというグローバル化の流れが今世紀の情報革命を経てますます加速しています。

 この国際分業体制というのは、19世紀のイギリスの経済学者デヴィッド・リカードの「比較優位」という考え方を利用したものです。簡単に言えば、「それぞれの国が得意とする分野に専念すれば、皆がその恩恵を享受できる」という考え方です。

 たとえば、タイピングが世界一の弁護士と平凡な能力のタイピストがいたとして、弁護士はそのタイピストを雇うべきでしょうか?

 この命題に対して、リカードは「雇うべき」と答えました。

 弁護士が持てる時間のすべてを弁護士業務に専念することで、タイピストを雇う費用を支払っても余りある利益が期待できるからです。一方のタイピストも、タイピング業務を請け負うことで収入を得ることができます。

 この場合、弁護士はタイピストに対して、弁護士業務でもタイピング業務でも優れている(絶対優位)ので、すべてを一人で行う方が良いと思われるかもしれません。

 しかし、1日24時間という限られた時間の中ですべての業務を抱え込むのは無理があり、その時間にタイピストが弁護士に対して相対的に優位(比較優位)なタイピング業務を行う方が全体の生産性を高めることができます。

 これが、国際貿易にも当てはまる比較優位の考え方です。

 ところが、トランプ大統領が旗振り役となって進めている保護主義は、これまで先進国が営々と築いてきた国際分業体制を崩壊させ、さらにはヒト・モノ・カネという経営資源の国際移動を制限しようとするものです。

 これは、「グローバル化」から「脱グローバル化」への転換をもたらすものに他なりません。そうなれば世界の生産量は減少し、物の値段は上昇してしまいます。

 たとえば、安価な労働力で大量生産されてきた中国製品が、賃金水準の高い米国製品に置きかえられれば、物価が上昇することが想像できるのではないでしょうか。

 実は、こうした「脱グローバル化」への地殻変動は、今回がはじめてのケースではありません。大航海時代に世界経済がつながった頃から、何度も振り子のように自由貿易と保護貿易との間を行き来してきたのです。

 そして、歴史を俯瞰してみると、このような大きな転換期にこそ時流に合った投資を行うことで、巨万の富をつくり得ることが分かります。