「どんな時にも人生には意味がある。未来で待っている人や何かがあり、そのために今すべきことが必ずある」ーー。ヴィクトール・E・フランクルは、フロイト、ユング、アドラーに次ぐ「第4の巨頭」と言われる偉人です。ナチスの強制収容所を生き延びた心理学者であり、その時の体験を記した『夜と霧』は、世界的ベストセラーになっています。冒頭の言葉に象徴されるフランクルの教えは、辛い状況に陥り苦悩する人々を今なお救い続けています。多くの人に生きる意味や勇気を与え、「心を強くしてくれる力」がフランクルの教えにはあります。このたび、ダイヤモンド社から『君が生きる意味』を上梓した心理カウンセラーの松山 淳さんが、「逆境の心理学」とも呼ばれるフランクル心理学の真髄について、全12回にわたって解説いたします。

フランクルが独自に生み出した心理療法<br />「逆説志向」と「反省除去」

われわれが自分の不安から自由になれるのは、自己観察やまして自己反省によってではなく、また自分の不安を思いめぐらすことによってでもなく、自己放棄によって、自己を引き渡すことによって、そしてそれだけの価値ある事物へ自己をゆだねることによってである
『神経症1(V・E・フランクル[著]、宮本忠雄 小田晋[訳] みすず書房)

不安から自由になる「逆説志向」

 フランクル心理学は、人生観にコペルニクス的転回を起こす「思想・哲学」として世界中の人に影響を与え続けています。その「思想・哲学」の側面がクローズアップされるため、心理療法としての側面が忘れられがちです。

 フランクル心理学は「ロゴ・セラピー」と呼ばれます。「セラピー」ですのでフランクルが開発したオリジナルの「心理療法」があります。その代表的なものが2つあり、ひとつ目が「逆説志向」(paradoxical intention)で、ふたつ目が「反省除去」(dereflexion)です。

 本稿ではこの2つの「心理療法」について解説していきます。まず最初に、「逆説志向」について述べていきます。

「逆説志向」とは、その本人が不安に思うことや恐れを抱くことを、自ら積極的に望んでみたり、行なったりすることです。不安や恐れから人は逃げたいものですが、逃げるのではなく、むしろ不安や恐れの中に飛び込みくぐり抜けていくようなイメージです。

 例えば、人前で話す時にどうしても緊張してしまう人のケースを考えてみます。聴衆を前にして話すことに苦手意識を持っている人は多いものです。

 会議でプレゼンで、あるいは結婚式のスピーチの場面で、人の前に立ち「緊張しないよう、しないように」と思っていても、顔が赤くなったり手が震えてきたり汗が流れてきたりします。緊張は自分の意志とは無関係に起きてくる生理現象であり、なかなか克服できないものです。

 この時、心では「緊張しないよう、しないよう」と緊張を抑えようとしていますが、体は逆にどんどん緊張してきます。緊張状態では、心理的な葛藤が発生しています。その葛藤がますます緊張を加速させるので、覚えていることを全て忘れてしまうような頭が真っ白になる状態が起きるのです。

 そこで「逆説志向」では、「緊張しないように」ではなく、「もっと緊張しろ、もっと緊張してやれ」と、自分が恐れている状況を自ら望む(志向する)ようにします。さらに、避けたい状況を自己指示する時に、ユーモアを絡めるのが「逆説志向」の大きなポイントです。

 例えば、「よし、今日のプレゼンで私は世界で一番緊張してみせるぞ。顔を真っ赤しにしてぶるぶる手を震わせてみんな大笑いさせてやるぞ」といった風にです。