職場の上司や部下がもし発達障害だったら、どのように対応すれば良いのか。前回(記事はこちら)はエンタテインメント業界を取り上げたが、今回は一番難しいと思われるサービス業のマネジメント側から見た現状を聞いてみた。(ジャーナリスト 草薙厚子)

マルチタスクが求められる
サービス業には向かない発達障害者

発達障害者の就労には、専門医を交えた対応が必要になる発達障害者の就労には、さまざまな困難がある。会社側も発達障害に詳しい医者のアドバイスを得るなどの努力が必要になる(写真はイメージです) Photo:PIXTA

 発達障害者にとって、向かない業種の1つと言われるサービス業。対人関係能力など、マルチタスクが求められるからだ。

 発達障害であることをオープンにせずに就職活動を行っている場合、面接時にその特性を見抜くことは非常に難しいと語るのは、某サービス業のB人事部長。入社後に10人ほどの発達障害者が在籍していたということがわかって、現在対応に追われているという。

「基本的にマルチタスクができないのです。サービス業の仕事はプロセスが複雑で、プロセスをちゃんと理解していないと、想定外のことがあったときに対応できない仕事です。採用面接の時にはマルチタスク能力を見抜くことは難しいですね。入社後、仕事をしてからそれに気づくのが一番悩ましいところです」

 B氏の会社は学生にも人気の企業だけあり、一流有名大学からの入社が多い。難関をくぐり抜けて入社してくるのだから、新入社員とはいえ、対応力や柔軟性もあるとみなされる。しかし、マルチタスクでつまずき、会社の求めるパフォーマンスに応えられないことが続いた場合、どのような対処をするのだろうか。

「基本的には階級を下げざるを得ないですね。まだ活躍できる可能性が高いからという前提で本人と話をして、降格させることが多いです。マネジャーは医療の専門家ではないので、勝手に発達障害と判断することはできません。確信が得られない場合には、医療機関で専門家に診てもらうように導くケースもあります」

 発達障害者には、向く職業と向かない職業がある。マルチタスクを求められるサービス業は、彼らにとって難しい職場なのだ。

「診断が出ている場合には、外に目を向けさせる、つまり、転職をして自分に向いた職場で能力を発揮した方がいいのでは?と水を向けて、本人に考えさせるケースもあります」

 発達障害ゆえに向かない職場なのであれば、方向転換した方が本人にとってもメリットがあるというわけだ。ただし、高学歴の人は、仕事の成果が出ない理由として、自分の障害を盾にするケースが多いという。

「人事制度上、彼らには仕事内容に見合った給料を払うというルールになっています。疾病を理由にされても、それは専門家に相談すべき内容ですから、こちらとしても困るわけです。本当にその障害特性によってパフォーマンスができないのであれば、グレードを下げるか、退職して外に目を向けるのかということを伝えるんですが、ここが難しいところで、不当解雇だと言われかねない状況なので、サジ加減がすごく難しくて苦労しますね」