ヒット商品の裏には必ず「インサイト」あり。消費者がモノを思わず買いたくなってしまう心のスイッチ――「インサイト」を活用し、新しい市場を切り拓く方法とは。国内での新規事業の創出に加えて、インドや中国といった海外進出の際に実際に使われた方法もまとめた新刊『戦略インサイト』。本連載ではそのエッセンスや、マーケティングに関する最新トピックを解説していきます。

インサイトを戦略的に活用するためには、
“右脳”と“左脳”の両方が欠かせない

人は、理屈だけでは動かない。
人には、論理的に物事を考え理性的に判断する「左脳」と、感覚的に物事をとらえ直観的に判断する「右脳」がありますが、いつも左脳だけで理性的に行動しているわけではありません。
モノを買うときも、性能や価格から理性的に「左脳」で商品を選ぶとは限りません。
「なんとなく、こっちが好き」とか「このブランドのほうが、かっこいい」など、感覚的・直感的に「右脳」で選ぶことも多いでしょう。

だから、人の行動の理由を探るとき、そして人の気持ちを探る場合も、左脳で理屈ばかりを考えていても、真実にはたどりつけません。
日常生活の中でも、例えば、パートナーの気持ちを推し量るのに、右脳の直観力は欠かせないでしょう。

また、「人がこういう気持ちでいるのなら、こういう新商品が考えられるのではないか」という「インサイトからアイデアを発想する」ためにも、右脳が必要不可欠です。

そして、「このインサイトをとらえた、こういう新商品なら、うちの技術も使えるし、競合との戦いも勝ち切れそうだ」といった成果を見通せる“筋(スジ)のいい”シナリオを俯瞰的・直観的にイメージするのも右脳の役目です。

AIのアルファ碁が、プロ棋士に勝てるようになったのも、ある意味“直観的”に優位に戦え勝てそうな “筋のいい”手を見つけるようになったからだといいます。
それまで、「左脳」的に、あらゆる打ち手の可能性をすべてシミュレーション計算していたのを、ディープラーニングを取り入れてからは、人間の「右脳」のように直観的に筋のいい手に絞って計算するようになったのです。

話をマーケティングに戻すと、やはり、筋のいい戦略シナリオかどうかを直観的・俯瞰的に“読む”ためには、右脳が欠かせないということでしょう。

しかし、これらの発想やシナリオは、直観的なイメージにすぎません。
「左脳」を使って、ひとつずつ論理的に検証していく必要があります。
特に「戦略的」にインサイトを活用するためには、左脳が不可欠です。社内外を問わず、多くの関係者・組織を動かし、経営にインパクトを与えるような成果を出すためには、論理構築が欠かせないでしょう。

まず、市場機会を見出し特定するためには、定量的な検証が必要です。
そして、インサイトから発想してつくられた新製品は、本当に受容性があるのか、インサイトを的確にとらえているのか、コンセプトやプロトタイプの段階で検証する必要があります。
また、新製品を開発する上で、自社のどのような独自技術を使うか。それは、特許に守られていて、当面は市場を占有できるのか。その後も、競合より優位に立てる強みがあり、勝ち切れるのか、などを「左脳」で理性的に判断していくことになります。