なぜ、日本人なのに、日本人相手に伝わる文章が書けないのか? 書いた本人はきちんと書いているつもりでも、伝わっていなければ意味がありません。伝わらない理由は、書いた内容が漠然としたイメージのため、聞き手が想像できないからかもしれません。
「うまく書けない」「時間がかかる」「何が言いたいかわからないと言われてしまう」――そんな悩みを解消する書き方を新刊『人一倍時間がかかる人のためのすぐ書ける文章術 ムダのない大人の文章が書ける』から紹介していきます。

「具体例」とともに述べれば、
「意見」が伝わる

問題:空欄を埋めてみよう
来期はもっと頑張ろう。
たとえば、(         )。

「何が言いたいのかわからない」と言われたことはありませんか?

 その原因の一つは、意見が漠然としていることです。漠然とした書き方では、読み手が「結局何のこと? 私は何をしたらいいの?」と戸惑ってしまいやすいのです。

 意見ははっきりと述べたほうが伝わります。

 では、「はっきりと」とは、どういうことなのでしょう?

 たまに、この「はっきりと」は語気の強さだと誤解している人がいます。それでよくいるのが、「絶対にうちの職場は変わったほうがいい。本当に!」と強い口調で述べるだけの人─。これでは、結局何をどう変えたらいいのかわからないのです。

「うちの職場は変わったほうがいい。まずは、無駄な会議を減らすところから」というように、全体の方向性を大きく語った後、具体的に語られると納得できます。

 冒頭の問題もそうです。「もっと頑張ろう」というだけでは抽象的で、漠然としています。このままでは熱いメッセージも右から左に通り抜けてしまう恐れがあります。そこで、ここに具体例を付け加えます。

来期はもっと頑張ろう。たとえば、お問い合わせくださった方からより確実にご契約いただけるよう、提案力を磨いていこう。

 こうすると、読み手にイメージが浮かぶようになります。

 そうなってこそ、「自分はそれに対して何ができるかな」と考えるのです。自分事として受け止めるので発想が広がり、実際の行動につながります。

頑張る・ちゃんとやる・終わらせる
→「何をいつまでに」「どうやって?」で具体化

 これは、感想を述べるときも同様です。

「面白かった」の一言で終わってしまう人がいますが、それはもったいない。「特に、◯◯のシーンが●●でした」と具体的に「どこ」が「どう面白かったか」を付け加えるのです。そうすると、最初の「面白かった」という意見にも真実味が出てきます。

 これは、自分が言われた側になった場合を想像するとわかりやすいです。

「面白い!」と言われたら、「特にどこが?」「どんなふうに?」と聞き返したくなりませんか。自分が感想を書く際には、最初からその具体例を添えて書けばいいのです。

面白い・好きだ・楽しかった・いい・すごい
→「特にどこが?」「どんなふうに?」で具体化

 なお、意見と具体例の順序は入れ替えることもできます。

 相手とイメージを共有したい場合には、具体例から話を始めるといいでしょう(後ろにまとめが来るので、尾括(びかつ)型と呼びます)。

杖をついているおばあちゃんがいたら、席を譲ったほうがいいですよね(具体例)。困っている人がいたら、自然と助けられる人になりたいものです(まとめ)。

 逆に、報告や依頼など、ビジネスの文章では、先に結論を伝え、その後で具体的な話に入ったほうがいいでしょう(頭括{とうかつ}型)。

 文章が長くなってきた場合は、まとめと具体例とを交互に書きます。

今回のプレゼン、面白かったです(まとめ)。特に、机に最適な素材にたどり着くまでの過程は興味深く拝聴しました。あの角の部分にもあれだけの改良の歴史がおありなのですね。そうした細部までの気配りが、A社製品のクオリティを支えているのだと実感いたしました(具体例)。我々一同、プレゼンに感銘を受けておりまして、ぜひ導入したいと考えております(まとめ)。

 最初と最後それぞれにまとめを付ける双括(そうかつ)型の場合、単に同じまとめを繰り返すだけではつまらない文章になってしまいます。後ろのまとめで、より踏み込んだ言い方をすると意見が強く印象に残ります。