なぜ、日本人なのに、日本人相手に伝わる文章が書けないのか? 書いた本人はきちんと書いているつもりでも、伝わっていなければ意味がありません。「この」「その」、「前者」「後者」、読んでてどっちを指示している言葉なのか、ストレスに感じることありませんか? 皆さんも知らぬ間に同じことをしているかもしれません。
「うまく書けない」「時間がかかる」「何が言いたいかわからないと言われてしまう」――そんな悩みを解消する書き方を新刊『人一倍時間がかかる人のためのすぐ書ける文章術 ムダのない大人の文章が書ける』から紹介していきます。

「この」「その」……
指示語を正しく使えてますか?

問題:選んでみよう
新宿駅には東口・西口二つの店舗がありますが、東口の店舗では賃貸物件は取り扱っていません(西口では取り扱っています)。そちらでは事前来店予約を受付中です。

「そちら」が指すのは?
・新宿東口店
・新宿西口店

 上の問題、どちらと答えましたか?

 西口の話はオマケみたいに( )が付いているから、東口のほうかな? でも、直前に挙げられているのは西口だしな─このように悩んだ方も多いのでは。

 さて、正解を発表しましょう。

 実は、この文章ではどちらが正解なのか、確定することができません。少々ずるい問題ですが、この文章は2通り、どちらとも読み取ることができるのです。

 本節で皆さんにお伝えしたいのが、こうしたわかりにくい指示語を使ってはならないということです。

 同じことを繰り返し書かずに済むという点で、指示語は便利な表現ですが、濫用されると、文章が一気に読みにくくなります。指示語の使用はほどほどに。段落をまたいだら、もう一度もとの名詞を書くぐらいのつもりでいいのです。

 特に、読み手にとってわかりにくいのが、「前者」「後者」。「前者」はどっちのことだったっけ、と前に戻らなくてはいけないとき、ストレスが発生します。

 また、「前述の通り」「先ほども述べましたが」も、同様のストレスを生むことがあります。

 現代の文章において最大の敵はこの読むときのストレスです。ウェブ上の文章なら、ストレス=ブラウザを閉じる。そこで読まれなくなってしまうのです。抵抗なく、スムーズに読める文を目指す必要があります。前から順にすっと読み進められる書き方を心がけましょう。