高齢者の働き方改革を「昭和の価値観」で進める安倍改造内閣への不安内閣改造により閣僚の顔ぶれが一新されたが、安倍首相が早速打ち出した高齢者雇用の延長に関する指示は、不安を募らせるものだった 写真:首相官邸HPより

改造内閣の政策に募る不安
高齢者雇用の延長に見る課題

 内閣改造により閣僚の顔ぶれが一新されました。日本経済の生産性と潜在成長率を高めるには改革(規制改革、地方分権)が不可欠ですが、安倍政権の過去6年間であまり改革が進まなかったことを考えると、安倍首相が最後の3年でどれだけ改革を進められるかが、日本経済の将来にとって非常に重要な課題となります。果たして内閣改造後の安倍政権で、改革は進むのでしょうか。

 まだ改造内閣は動き始めたばかりですが、改革という面では早速その先行きを不安視せざるを得なくなったように思えます。その理由は、安倍首相が10月5日の未来投資会議で高齢者雇用の延長に関して出した指示です。

 現在、高年齢者雇用安定法は、企業で働く人の定年は60歳を下回ることができないとした上で、定年延長や継続雇用(再雇用)などにより希望者全員を65歳まで雇用するよう、企業に義務付けています。その年齢を70歳に引き上げる方向を明確にしたのです。70歳を過ぎてからでも年金受給を開始できるようにする年金制度の改正とセットで進める方針のようです。

 年金制度の持続性を高める観点からは、実は受給者の選択で70歳からの受給を可能にするだけでは不十分で、将来的には年金支給開始年齢を70歳まで引き上げることが不可欠です。そうした現実を踏まえると、その前提として高齢者が長く働ける環境を整備するという政策の方向性自体は、非常に正しいと評価できます。

 しかし、その実現のための手段として、企業に定年や再雇用の年齢引き上げを強いることは、本当に正しい政策対応と言えるでしょうか。

 そもそも中小企業は慢性的に人手不足に喘いでおり、実際に政府に言われなくても70歳を超えた高齢の社員に継続して働き続けてもらっているところが多いと聞きます。つまり、高年齢者雇用安定法で70歳までの定年延長や再雇用を求める対象は、主に大企業ということになります。

 それは表現を変えて言えば、大企業の雇用慣行である終身雇用を70歳まで延長しようとしていることに他なりません。それは、もちろん高齢者の雇用促進という観点からはプラス面もありますが、経済全体を考えればマイナス面も大きいのではないでしょうか。