景気もドル相場も上り坂の終盤。「まだ上がる」と相場の上澄みを狙う短期ドル買いは今でも可能だ。しかし、堅実な投資家には相場格言「まだ」は「もう」なりと言いたい。

 今や110円以上でドルを買って中長期保有できると考える機関投資家は少ない。ドル円は10月初めに114円台へ上伸したが、投資家不在の投機相場は案の定すぐ反落した。

 相場転換への備えの第一は、市場の既存のポジション(=リスク)の精査である。相場転換後の下げは、リスク・損失回避のための既存の買いポジションの売りを激化させやすい。

 この点、ドル安基調への転換後の円高は、過去の事例ほど早期に加速しないかもしれない。日本側では近年、海外直接投資や年金の証券投資など過敏に巻き戻されにくい為替ポジションが増えた。

 それでも、長年の経常黒字分の外貨買い持ちを積んだ円は、ドル安基調への転換時に買い持ち解消で上昇しよう。その際は、米国側で膨らむ株式と債務の両ポジションが、金利上昇と株安の悪循環で損失を被る程度を、ドル円へのリスクとしても注視しよう。被る程度が大きければリスクオフでの円高がより進みやすくなる。

 備えの第二は相場変調の兆候を正しく観察すること。景気の黄信号点滅は、金利が中立水準(今は3%か)をうかがうあたりから、消費や企業投資がまだ堅調でも、住宅部門が陰ることだ(図・上参照)。足元の住宅鈍化が金利高のせいか天候要因か注目しよう。

 次に景気に先行する形で株価が不安定化する。金融引き締めで大型株から中小型テーマ株へ主役が移行、取引量が減る。近年は株価変動率(ボラティリティー)の低さを尺度とする株式投資が多く、株安とボラティリティー高が相伴うと黄信号点灯だ(図・中参照)。

 株安が社債売りを招くと、株安と企業債務の信用度低下の悪循環という赤信号だ(図・下参照)。変節の兆候は現実に増えつつある。

 10月初めの円安・株高に際して、遅行シグナルの決算や景気全般の良さを列挙し、相場はまだ続くと強調した専門家は多い。円安・株高を好み、今決算期中の成果を追求する金融業者の専門家の見方は特有の強気への偏向を保ちがちだ。

 日本の投資家はかつて幾度も彼らに従って逃げ遅れ、「景気悪化+株安+円高」の三重苦に陥った。相場に猶予があるうちに退避し、次の三重苦を好機に再参入する、そんな余裕ある投資サイクルの定着を期している。ぜひ変節の警戒シグナルを愚直に読む目を養ってほしい。