ロボティクスと服を融合させた「パワード・クロージング」をご存知だろうか。見た目も着心地も普通の衣類だが、身体の一部のように自然に機能し、ロボティクスの「筋肉」で着る人の本来の筋力をサポートして、体幹を支えてくれるというものだ。座る、立つ、走る、物を持ち上げるなど、日常生活での様々な動きをアシストしてくれるこのウェアは、高齢化が進む日本でも注目されそうだ。ウェアを開発したベンチャーは、米国のサイズミック(Seismic)。来日した共同創業者でCEOのリッチ・マホーニー(Rich Mahoney)氏に、パワード・クロージングの市場展開と、自身の起業家としての矜持を聞いた。(執筆/ダイヤモンド・オンライン副編集長 小尾拓也、撮影/宇佐見利明)

SRIに入所しスタートアップを育成
「パワード・クロージング」を研究

――なぜロボティクスの分野を仕事に選んだのですか。

アパレルとロボティクスを初めて融合した、元SRIディレクターの起業家魂米サイズミック(Seismic)のリッチ・マホーニー(Rich Mahoney)共同創業者・CEO

 私はロボティクスに25年以上携わってきました。英ケンブリッジ大学で工学の博士号を取得後、米国に戻りましたが、大学での研究というキャリアに興味を持てないと気づきました。私が興味を持っていたのは製品開発で、早い段階から、初期段階のテクノロジーを実証し、技術移転することに関心を注いできました。

 社会に出てから3つの職場を経験し、その中の1つであるMotorikaというイスラエルのスタートアップ企業では、米国でのビジネスを率い、脳卒中患者のリハビリ用ロボットの開発に関わりました。

 そして、2008年にSRIインターナショナル(SRI International/元スタンフォード研究所、米カリフォルニア州にある世界最大級の研究機関/以下、SRI)に入所し、ロボティクス部門長に就任したのです。このポストに惹かれたのは、テクノロジーを統括できる立場で、研究・開発した技術をスピンアウトさせ、スタートアップ育成に貢献できることでした。

 我々はSRIで7つほどのテクノロジーを開発し、民間企業との協業やスタートアップとしてスピンオフさせました。たとえば、静電気の付着性を利用したグリッパーを開発するグラビット(Grabit)、リンゴ収穫を自動化する技術を手がけるアバンダント・ロボティクス(Abundant Robotics)などのスタートアップや、ヤマハと共同で開発したヒト型自律ライディングロボット「モトボット」(Motobot)など。自分はSRI内部で「連続起業家」(serial entrepreneur)のような立場でした。

――そうしたバックグラウンドがあり、ロボティクスの分野であればビジネスで成功できると見込んで、サイズミック(Seismic)を立ち上げたのですね。

 そうです。サイズミックのコンポーネント技術は、もともと米国国防高等研究計画局(DARPA)が資金提供したプログラム として、SRI が開発したものです。このプログラムは、兵士の負傷リスクの軽減と持久力の向上を目的としたもので、私がリーダーを務めました。