「低炭水化物ダイエットは正解か?」
「脳が砂糖をやたら欲しがるのはなぜか?」
「食べた分だけ動けば確実にやせるのか?」
「カロリーを減らせば体重は減るのか?」

これらの「食事の疑問」に答えつつ、「人が太るメカニズム」を医学的に徹底解明したNYタイムズベストセラー『果糖中毒』が発売後すぐに2刷重版を決めた。

アメリカの一流メディカルスクール教授が229の医学論文から「食事の正解」を導き出し、「健康な脳と体」に戻るための処方せんをあざやかに提示したとして、原書はアメリカで12万部を超え、アマゾンレビュー987件、平均4.6と高評価をたたき出した。

最新のWHO統計によると、現在世界で約19億人が「体重過多」、約6億5000万人が「肥満」だという。これは世界中の人々が運動を怠けて、食べ過ぎた結果なのか? 『果糖中毒』では、「肥満は自己責任論」を全面否定し、現在の「肥満の世界的大流行」は糖分、特に「果糖」が主な原因だと結論づけている。

ここで『果糖中毒』の一部を特別に無料で公開する。

コカ・コーラの売上の42%が
ダイエット製品

ダイエット甘味料で体重が減った研究は1つもない

 ダイエット甘味料は万能薬か? それともただの誇張広告か? これは今日の栄養学における、最も悩ましい疑問だ。この点については、私は不可知論者〔証明することも反論することもできない者〕である。

 なぜかというと、どのダイエット甘味料が最もすぐれているかを推薦するためのデータについても、ダイエット甘味料ははたして賢い代替手段なのかどうかを知るためのデータについても、現在のところ確実なものがないからだ。

 一見すると、ダイエット甘味料は、ショ糖(砂糖)または異性化糖に代わる素晴らしい代替物のように見える。カロリーを増やさずに甘味を加え、問題の果糖を除くことができるからだ。

 アメリカは、肥満大流行のせいで、ゆっくりと、だが確実に、ダイエット飲料への依存を強めている。2010年の時点で、アメリカにおけるコカ・コーラの売上の42%はダイエット製品だった。

 だが、ちょっと待ってくれ。もし糖分摂取の33%が飲料に占められていて、42%の飲料が今ではダイエット製品だとすれば、体重を落とした人がいて当然だろう。にもかかわらず、砂糖をダイエット甘味料で置き換えた飲料が、肥満した被験者の体重減少に貢献したことを示す研究は、ただの1つもないのである。

 砂糖業界が率先して行った複数の研究では、ダイエット飲料の摂取は、メタボ症候群の広がりと相関していることが示された[1]。ただし、ここでも思い出してほしいのは、相関関係は因果関係ではない、ということだ。

 ダイエット甘味料がメタボ症候群を引き起こしたのか、メタボ症候群を抱える人たちが、「トゥインキー」を食べていることへの罪悪感を減らすために、ダイエット飲料のほうをより多く飲んでいるのかどうかはわからない。

ダイエット甘味料が抱える5つの問題

 だとすれば、なぜ砂糖をダイエット甘味料に変えることによってカロリー摂取量、体脂肪、メタボ症候群が減るのかどうかわからないのだろう[2]? 実は、私たちの無知の根底には、5つの問題が潜んでいるのだ[3]。

問題1 体に与える影響がまったくわからない
 まず、薬物動態学と薬力学は同じではない、ということがある。簡単に言うと、薬物動態学とは、あなたの体が薬物にすることを調べる学問で、薬力学は、薬物があなたの体にすることを調べる学問だ。この2つは同じものではないどころか、はなはだしく異なる。

 すべてのダイエット甘味料の薬物動態学データは、安全性を確かめるために入手可能だ。というのも、そうした商品をアメリカの市場で売るには、米国食品医薬品局にデータを提出して、認可をとりつけなければならないからだ。

 しかし、薬力学データはない。こうしたダイエット甘味料が、長期的な食物摂取、体重、体脂肪、代謝状態にどんな影響を与えるかについては、まったくわからないのだ。その理由は、米国食品医薬品局が薬力学的研究を要求しないからである。

 米国食品医薬品局が薬品(甘味料を含む)の認可を下すときには、2つのことしか調べない。安全性と効果だ。そのため、食品業界は薬力学研究を行わない。高くつくし、場合によっては、その結果が販売に悪影響をおよぼすことさえ考えられるからだ。さらには、米国国立衛生研究所(NIH)も、それをやるべきなのは食品業界だと言って、みずからやろうとはしない。

 こうして薬力学研究はまったく行われないままになる。体に吸収されなかった甘味料はどうなるのだろう? キシリトールやソルビトールといった糖アルコールは腸で吸収されない。だから、安全だろう? ああ、そうだ。ただし、大量に摂取すると、それらはひどい胃腸障害、腹部膨満感、そして下痢を引き起こす。

問題2 脳に与える影響がまったくわからない
 ここに潜在的な懸念がある。あなたは炭酸飲料を飲んだとしよう。舌は糖分またはダイエット甘味料の甘さを感じる(舌は、甘さが何からきているのかを判断することはできない)。

 そして、こんなふうに言いながら、「甘味」シグナルを視床下部に送る。「ほら、糖負荷がやってくるよ、代謝の用意をして」。すると視床下部はこんなふうに言いながら迷走神経を通じて膵臓にシグナルを送る。「糖負荷がやってくるよ、余分なインスリンを分泌する用意をして」。

 だが、もし「甘味」シグナルがダイエット甘味料から来ていたのだとしたら、いくら待っても糖分はやってこないことになる。するとどうなるだろうか? 視床下部は、こんなふうに言うだろうか?「まあ仕方ないな。次の食事がやってくるまで、ぶらぶらしてるよ」。それとも、「なんてこった、余分な糖がやって来る用意をしてたのに。そんなら、探してくるよ」。脳が糖分の欠乏を埋め合わせるかどうかはわからない。

問題3 腸内細菌の構成を変えてしまう可能性がある
 ダイエット甘味料が腸内細菌の構成を変えてしまう懸念がある。そうなると、炎症が起き、内臓脂肪の貯蔵が進む。

問題4 糖分への依存を強める可能性がある
 ダイエット甘味料が糖分依存症において、どんな役割を果たすかはわかっていない。ショ糖(砂糖)の場合、ドーパミン受容体のダウンレギュレーションが生じると、次に同じ効果を得るためにより多くの砂糖をとらなければならなくなり、ポジティブ・フィードバック・システムが築かれて摂取を増進させてしまう。同じことは、ダイエット甘味料についても見られる。

 そのため、もしかしたら、ダイエット甘味料も生化学的に同じ依存性を助長し、それがさらに糖分を求める行動に駆り立てる可能性がある。そうなると、たとえ今食べているものに糖分が含まれていなかったとしても、次は必ず糖分をとるようになってしまうだろう。

問題5 一度認可されると検証されない
 ダイエット甘味料の安全性の問題は非常に複雑だ。米国食品医薬品局の公式見解は、「認可されたなら安全だ」というもの。だが、本当にそうだろうか? アスパルテームに関する懸念はいまだに消えていない。市販されてからもう30年以上も経つというのに。

 そして、もう1つの側面がある。砂糖業界には、状況をあいまいにしたい理由が山のようにあるのだ。甘味料市場の支配権をおびやかすダイエット甘味料に対し、砂糖業界はたとえ相手がどんなものであっても、禁じ手なしのタックルをかます。彼らは、サッカリンが市場に登場して以来、あらゆる甘味料を攻撃してきた。

[1] R. Dhingra et al. (2007) “Soft Drink Consumption and Risk of Developing Cardiometabolic Risk Factors and the Metabolic Syndrome in Middle-Aged Adults in the Community,” Circulation, 116 (5): 480-88.
[2] M. Y. Pepino et al. (2011) “Non-Nutritive Sweeteners, Energy Balance, and Glucose Homeostasis,” Current Opinion in Clinical Nutrition and Metabolic Care, 14 (4): 391-5.
[3] C. Gardner et al. (2012) “Nonnutritive Sweeteners: Current Use and Health Perspectives,” Circulation, 126 (4): 509-19.

(本原稿は書籍『果糖中毒』からの抜粋です。訳者による要約はこちらからご覧になれます)

著者について
ロバート・H・ラスティグ(Robert H. Lustig)
1957年ニューヨーク生まれ。カリフォルニア大学サンフランシスコ校小児科教授。マサチューセッツ工科大学卒業後、コーネル大学医学部で医学士号を取得。2013年にはカリフォルニア大学ヘイスティングス・ロースクールで法律学修士号(MSL)も取得。小児内分泌学会肥満対策委員会議長や内分泌学会肥満対策委員会委員などを歴任。「果糖はアルコールに匹敵する毒性がある」と指摘した講義のYouTube動画「Sugar: The Bitter Truth(砂糖の苦い真実)」は777万回以上視聴されるほど大きな話題になった。
中里京子(なかざと・きょうこ、訳者)
翻訳家。訳書に『依存症ビジネス』(ダイヤモンド社)、『ハチはなぜ大量死したのか』(文藝春秋)、『不死細胞ヒーラ』(講談社)、『ファルマゲドン』(みすず書房)、『チャップリン自伝』(新潮社)ほか。