採用現場でも「コミュニケーション能力」を重視する企業は多い。

しかし、業務連絡や仕事上のやりとりはできても、
ちょっとした会話に困るという人、飲み会やランチ、
出張や外出時の移動中に上司や取引先の人と何を話せばいいのか。
しかも、これからは忘年会などもあり、
なれない人たちと仕事以外の話題で「場をつなぐ」機会は増える一方だ。

そんななか、雑談力が今、再び注目を集めている。いまや雑談力は「社会に出てから身につけるべき必須スキル」と言われ、エクセル操作と同じく、学んで身につけるものだという認識が浸透しつつある。

なぜ今、雑談力が必要とされるのか。「コミュニケーションのバイブル」として、多くの人たちに読まれ続けている、シリーズ50万部超えのベストセラー『雑談力が上がる話し方』の著者である明治大学齋藤孝先生が、すぐに実践できる「場つなぎ雑談」のやり方を伝授する。(まとめ/編集部)

共通の話題がない人との「場つなぎ」雑談、<br />上司や取引先との会話は「一問二答」で乗り切る仕事の移動中、上司や取引先との会話が続かないときはどうする?

「沈黙は怖い。でも雑談は苦手」な人、急増中

世代の違う年上の人と話をするのは気詰まりで面倒くさい。
会社の上司とも、仕事の報告や連絡事項以外の話は極力したくない。
そんな若者が増えています。

気持ちはわかりますが、実にもったいない。
そしてそんな状況に困惑しているのが、
本来気詰まりされる側である上司や年配者なのです。

たとえば部下を連れて取引先に出かけるような状況になると、
何時間も黙ったままになってしまい、気疲れしてしまう。

ですから最近では、上司のほうが気を使って
部下に話しかけるケースが多いといいます。

一問一答では、思春期の子どもと同じ

共通の話題がない人との「場つなぎ」雑談、<br />上司や取引先との会話は「一問二答」で乗り切る齋藤 孝(さいとう・たかし)
1960年、静岡県生まれ。東京大学法学部卒業。同大学院教育学研究科博士課程を経て、明治大学文学部教授。専攻は教育学、身体論、コミュニケーション論。テレビ、ラジオ、講演等、多方面で活躍。
著書は『声に出して読みたい日本語』(草思社)、『読書力』『コミュニケーション力』(岩波新書)、『現代語訳 学問のすすめ』(ちくま新書)、『質問力』(ちくま文庫)、『語彙力こそが教養である』(角川新書)、『雑談力が上がる話し方』『雑談力が上がる大事典』『会話がはずむ雑談力』(ダイヤモンド社)など多数ある。撮影/佐久間ナオヒト

こうした場合によくありがちな会話の例を挙げてみましょう。

「キミは何かスポーツやってるの?」――「別にしてません」

「お酒は飲めるクチかい?」――「普通です」

「仕事には慣れたかい?」――「まあまあです」

聞かれたことだけに答える、
いわば「一問一答スタイル」が非常に目立ちます。

「学校はどうだ?」と親に聞かれて、
「普通」「まあまあ」としか答えない思春期の子どもと同じ。
あとはウンでもなければスンでもない。
当然、話はそこでおしまいです。
これではいくら話を振られても、会話が広がるわけがありません。

たとえば上司があなたに
「最近、休みの日は何をしてるの?」と聞いてきたとします。

ひょっとしたら聞かれた側のあなたは、
自分のプライベートに踏み込まれたような
不愉快さを感じてしまうかもしれません。
仕事以外のことを話す必要はないと
ドライに割り切りたいと思うかもしれません。

しかし実際のところ、上司もあなたの休日の過ごし方に興味があるわけではありません。
多くの場合、話をつなごう、打ちとけて雑談を楽しもうと思っているだけなのです。

だから気楽に行きましょう。過度に自意識過剰になる必要などないのです。

一問二答を心がけるだけで会話は広がる

たとえば「最近、仕事以外で何かハマッていることは?」と聞かれて、
ただ「映画です」だけでは、はい、チャンチャンで会話終了。

でもそのあとに「この前見た○○はよかったですよ。
あまり期待してなかったんですけど、いい意味で裏切られました」
といった
プラスαのひと言を入れて返すだけで、そのやりとりはちょっとした雑談に変身します。

そして今度は、最初に質問した上司が再び、
「誰が主演してるの?」「知らなかった。今度行ってみようかな」という具合に返事をする。
またそれに答える──。そうすることで、話は心地よく転がっていくのです。

かつて日本には、「相手に対して興味を持つ」ことが礼儀だった時代がありました。
興味を持った相手の趣味を知って、そのことを話題にする。
それはコミュニケーションの基本として、ごく当たり前のことでした。
それに比べて今は、相手に興味を持たれることを面倒くさがる風潮が強くなっています。

しかし、あなたがコミュニケーション能力のある人なのかどうか、
ちょっとした雑談の印象で判断されているのです。
逆に言えば、若い人こそ、こうした何気ないやりとりができるかどうかで、
大きく差がつけられるのです。これは、チャンスです。

強調するまでもなく、雑談はキャッチボールです。
「趣味は?」と聞かれて「別に」と答えるのは、ボールを投げてもらっても、
それをただ受けているだけというのと同じ。
相手が提供してくれた話題にただ返答するだけでは、雑談にはなりません。

「一問二答以上」。
話に何かプラスαのオマケをつけて投げ返してこそ、初めて雑談になるのです。