『随想録』『随想録』
高橋是清著
(中央公論新社/2018年)
(オリジナル版の出版は1936年)

 資本主義経済の元祖とされるアダム・スミスに、道徳や哲学を説いた『道徳感情論』という著書がある。“高橋財政”で名高い高橋是清(1854~1936年)の、それに当たるのが本書だ。

「2.26事件」で高橋が暗殺された直後に、高橋の農商務大臣当時の秘書官だった上塚司(うえつか・つかさ)が慟哭の思いをもって取りまとめたものである。高橋は、「資本を作るものもその金利を払ふものも一国の勤労である」と説いていた。「王制であろうが、共和制であろうが、その政治は民意に依って行われる政治でなければならぬ」とも言っていた。

 そのような理念が、格差が激しく戦争に向かいつつあった混迷の時代の高橋財政の背景にあった。混迷の時代と言われる今日、心が洗われる随想録である。

(国家公務員共済組合連合会理事長 松元 崇)