「100年安心年金」を机上の空論からホンモノにするための手立て今夏、5年に1回の公的年金の財政検証が行われる。「100年安心年金」を実現するため、机上の空論に近い今の年金財政の枠組みに必要な視点とは何か(写真はイメージです) Photo:PIXTA

5年に1回の財政検証が迫る
年金財政の持続性は確保できるか

 今夏は、政府の定めた5年に1回の公的年金の財政検証が行われる。これは、急速な少子高齢化の進行の下で、年金財政の持続性を確保するための仕組みである。

 現行の年金財政の枠組みは、(1)保険料の上限を固定、(2)基礎年金の給付費の半分を国庫負担、(3)100年間維持されるという積立金、(4)財源の範囲内で給付水準を自動調整するマクロ経済スライドという4本柱からなっている。

 この年金財政の枠組みは、過去の年金給付の増加に応じて保険料を引き上げる方式から、現役世代と高齢世代のバランスの変化に合わせて給付面で調整する「確定拠出型」への転換と称される。もっとも、給付水準が際限なく引き下げられることを防ぐため、年金給付の現役サラリーマン世帯の平均賃金との比率(所得代替率)が公約の50%を下回らないよう、給付及び負担の在り方について必要な対応を行うのが財政検証の目的という(参考:厚労省資料より)。

 しかし、こうした制度は机上の空論である。第一に、高齢者の持続的な増加で年金給付は、過去20年間で毎年平均して1.2兆円増える一方で、長期デフレの下で賃金が増えず、保険料収入はほとんど増えていない。第二に、年金給付の増加は自動的に国庫負担増となり、税収が停滞する中で赤字国債の増加となる。第三に、肝心のマクロ経済スライドが「インフレにスライドする年金給付の増加額の範囲内で調整」という欠陥品であり、これまで十分に機能していない。このため100年持つはずの積立金も、2001年のピーク時から減少した後、最近の株高もあって2017年にはようやく回復した状況だ()。

 それにもかかわらず前回の財政検証では、積立金の運用利回りが、なぜか今後急速に高まり、積立金が膨れ上がるという空想的なシナリオを描くことで「100年安心年金」の建て前を維持した。今年の年金検証では、果たして現実的な制度改革を用意しているのだろうか。

 厚生労働省は年金の受給開始を75歳へ繰り下げる選択肢の検討を始めている。これで毎月の年金額は、65歳開始に比べて2倍程度に増えるという。しかし、これは加入者の平均寿命まで受け取る期間が短縮することで、生涯の年金受取総額は変わらない。また、年金財政にもまったく影響せず、およそ「年金改革」とは呼べない代物である。