「長距離音響発生装置」(LRAD)という米国生まれの製品がある。なんとも物々しい名前だが、この製品の総販売代理店に丸紅100%子会社の丸紅情報システムズが決まったことがわかった。もともとは軍事目的で開発されたものだが、意外な分野でも切り札となりそうだ。

 LRADは3キロメートル以上離れた対象にも、地下鉄車内の騒音を上回る音圧(約85デシベル)を伝えられる特殊スピーカーだ。耳をつんざくような大音量で、相手を傷つけずに攻撃意欲を失わせることができ、音響兵器ともいわれる。

 米国の音響メーカー、アメリカンテクノロジー社が開発。米軍に導入されているほか、ニューヨーク市警などで犯罪、災害対策として使われている。

 日本でも、海上自衛隊の護衛艦が海賊対策として取り入れ、4月にはソマリア沖で不審船を追い払って話題となった。2月にも調査捕鯨船が、活動を妨害してくる米環境保護団体シー・シェパードへの警告に使ったと報じられている。

 丸紅情報システムズは昨年12月から、国内代理店の1社としてLRADを販売してきたが、さらなる販路拡大が可能として、7月に独占販売契約を結んだのだ。

 その一つが獣害対策だ。国内ではシカ、サル、イノシシだけで年間100億円以上の被害が発生している。信州大学では、特に被害の大きいシカの追い払い、誘(おび)き寄せ策としてLRADを応用する研究が進められている。

 航空機に鳥が衝突する「バードストライク」回避の秘密兵器としても期待され、国土交通省が導入を検討しているところだ。2005年に米国を襲ったハリケーン「カトリーナ」では被災者への呼びかけでも活躍。災害でインフラが破壊された際の緊急連絡手段にも活用できる。

 使い道はまだまだ未知数で、どこまで需要を掘り起こせるのか。あらゆる業界とパイプを持つ親会社、丸紅との連携がカギとなりそうだ。

(『週刊ダイヤモンド』編集部 山口圭介)

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