ゆりかごで眠る赤ちゃんPhoto:PIXTA

 毎年、春分の日の前週の金曜日は、世界睡眠会議が定めた「世界睡眠デー」だ。

 良質の睡眠が心身の健康に必要なことはもう常識。ところが、日本の一般成人の5人に1人は不眠に悩み、およそ15%が日中に過剰な眠気を感じているという(厚生労働省調査)。

 経済協力開発機構(OECD)の2014年調査でも、日本人の平均睡眠時間は7時間43分と調査対象29ヵ国中の28位。それでも、この結果をみて「7時間以上眠れているなら、マシじゃないか」と思う人は少なくないだろう。

 実際、同じく厚生労働省の国民健康・栄養調査(15年)では、ここ数年間で平均睡眠時間が6時間未満の人が増え、5時間未満の人も1割近いことが明らかになった。

 睡眠不足の理由は、仕事や家事、育児など生活上で避けられないことや健康状態など。シフト勤務や深夜残業、あるいは「ワンオペ育児」など働き方の問題が背後に見え隠れしている。

 睡眠時間を確保できないならば、質の確保はどうだろうか。最近は睡眠の質にこだわる高機能寝具が市販されている。この際、健康コストと割り切って購入してもいい。

 さて、エビデンスに基づく寝具という点で注目したいのは「ゆりかご効果」だ。

 11年にフランスの研究者から報告されたもので、被験者は大人。就寝時にベッドを0.25ヘルツで振動させると無振動時と比較して、(1)眠るまでの時間が短縮、(2)脳を休める深い「ノンレム睡眠」の増加、(3)最も深い睡眠がより持続的にもたらされた、という。

 今年初めの続報では前述の効果が再現されたのに加え、記憶が改善する効果が認められた。睡眠不足で記憶力の低下が著しい睡眠障害患者や、高齢者向けベッドの開発に結びつく可能性がありそうだ。手っ取り早く寝具用のハンモックを利用するのもいいかもしれない。

 ちなみに0.25ヘルツの振動とは、左に右に10.5センチメートルほどゆっくり揺さぶられている感じ。電車内で眠れる人ならうなずけるはずだ。

 日本人が睡眠を確保している「ゆりかご」が、都心の電車というのは切ないけれど。

(取材・構成/医学ライター・井手ゆきえ)