イチローの引退会見から、ビジネスマンは多くを学べます。都合の悪い事実もありのまま認め、取り繕うような物言いはしなかったイチロー。曖昧な表現を繰り返したり、その場しのぎの返答をするよりも、イチローのようなコミュニケーションスタイルの方がよほど良い結果を生むものだ Photo:AP/AFLO

イチローの引退会見で、イチロー節がさく裂した。その中には、ビジネスパーソンが用いるコミュニケーションとは正反対の、しかし、見習った方がよいポイントが含まれている。(モチベーションファクター代表取締役 山口 博)

 シアトル・マリナーズのイチローが日本プロ野球で9年、メジャーリーグで19年の現役生活に終止符を打った。引退会見でのイチロー選手の発言には、特筆すべき3つのポイントがあるように私には思える。それらは、当たり前のことのように思えるけれども、日本のビジネスパーソンがいつの間にか忘れてしまった、コミュニケーションの基本なのだ。

ポイント1:事実をありのままに語る

 1つ目は、現役生活に終止符を打つことを決めたタイミングとその理由を問われた際の、イチローの返答だ。「タイミングはですね、キャンプ終盤ですね」と答えて、「キャンプ終盤でも結果が出せず」、引退を覆すことができなかったという意味のことを言っている。

 この発言のどこが特筆すべきかと言えば、正直に、ありのままを潔く伝えているということだ。私たちビジネスパーソンはつい、理由を明確にしなかったり、話を曖昧にしたり、時期を特定しようとしなかったりしてしまうことが実に多い。曖昧にすればするほど、相手はフラストレーションを覚え、関係の質を悪化させてしまう。

 曖昧に説明することに慣れてしまうと、それが高じて、できていないことを一部はできていると言いつくろったり、相手の質問にストレートに答えずに、別の観点からできているように説明したりしてしまうケースが少なくない。

 しかし、イチローは正反対だ。できなかったことはできなかったと言っていることが、2つ目のポイントだ。それも相手から指摘されてからではなく、自ら言及したのだ。それが、「常々、最低50歳まで現役ということを言ってきたが、日本に戻ってもう一度プロ野球でプレーするという選択肢はなかったのか?」という質問に対する返答だ。