元日本テレビ記者・キャスターで認定NPO法人マギーズ東京の共同代表、先ごろ自身のがん経験をまとめた著書『もしすべてのことに意味があるなら~がんがわたしに教えてくれたこと』が評判の鈴木美穂さん。内閣官房シェアリングエコノミー伝道師、一般社団法人シェアリングエコノミー協会事務局長であり、著書『シェアライフ  新しい社会の新しい生き方』が話題を集めている石山アンジュさん。同時期に初の書籍を発行、そして学生時代のアルバイトも同じ…など共通点の多い2人の対談が実現。お二人の直近のトピックスである著書について、ざっくばらんに語っていただきました。(構成/伊藤理子 撮影/石郷友仁)

がんになった事実は変えられないから「自分の捉え方」を変える<br />【鈴木美穂×石山アンジュ】

「やっと落ち着いて呼吸ができるようになりました」

石山 著書、拝見しました。ご自身の経験をここまで赤裸々に書くのって、本当にすごいなと思いました。

鈴木 がんのことだけでなく、恋愛のことや夫との出会いなどにも触れましたからね。アンジュさんは夫のこと知っているし(笑)。

石山 そうそう、しかも元カレのことも出てくるし(笑)。自分の人生をすべてシェアするという姿勢がすごいなと思いましたし、人生の記録というか、記憶の刻み方がとても繊細で、美穂さんはきっとご自身の感情でいろいろなものを記憶しているんだなあという印象を持ちました。

鈴木 そういうふうに感じましたか?

石山 はい。乳がんを告知されたときや闘病のもようなど、その時々の感情の動きがリアルにわかるというか、文字を通して美穂さんの気持ちが熱をもって伝わってきました。がんを告知されたのは2008年だから、もう10年以上前のことなんですよね?それをここまでリアルに書けるのはすごいなあ。

鈴木 当時は日記をつけていたり、何かあるごとにメモに取っていたりしたんですよね。当時、土江さん(ダイヤモンド社書籍編集局第4編集部編集長)に「きっと未来の美穂さんのためになるから、闘病中の記録を取っておいたほうがいい」と言われたのがすごく大きかった。

石山 それが10年のときを経て、実を結んだのですね。

鈴木 10年後に叶った。嬉しいことです。

石山 物事を悲観的に捉えずに、すごくポジティブ捉えているところも素晴らしいと思いました。がんという自らの辛い体験を「使命」として捉え、世の中に発信していこうと考える…これってなかなか普通の人はできないと思うんです。「こうしよう」と思ったきっかけみたいなものがあったのですか?

鈴木 闘病中は、やはり「このまま死ぬかもしれない」という恐怖があって。もし元気になれたら、これからは人のためになる人生を送りますから、神様どうか生かしてください!と毎日祈っていた時期があったんです。だからこそ、「生きていられるからには、この経験を活かさなきゃ」と思っているし、「自分にできることって何だろう?」と常に考えるようになりましたね。

石山 なるほど…。

鈴木 そもそも報道の世界を志したのは、「さまざまな社会の溝は互いに理解し合うことで埋まっていく」という考えからだったのですが、当時はもっと感覚的なものだったと思います。でも、自分がいざ、病気になって弱い立場に置かれたら、「これは私にとっても問題だし、社会にとっても問題だ」と思えるたくさんの課題が見えてきた。だったら私が、それを解決していかなきゃ!って思えたんです。

石山 多くの人が「自分と社会を接続する」ことに難しさを感じる中で、こうして社会の中で自分の立ち位置を確立されているのがすごいなって思います。

鈴木 でも、この立ち位置で本当にいいのか、ずっと悩み続けているんですよ。

石山 え?なぜですか?

鈴木 「がんになって10年経てば完治とみなせる」と言われているのですが、その10年を超えたらいったんガンから離れようと思っていた時期があったんです。その区切りを超えたのもあるし、がんになって今まさに闘病している人、再発して苦しんでいる人もいるなかで、がん経験を語り続けていると、がんを売り物にしているみたいに見られてしまうかも…と思ったりもして。

 がんになった自分を脱ぎ捨てたいという思いもありました。今はありがたいことに病気とは離れられていますが、このような活動をしていること自体が、ある意味がんに支配されてしまっているような気もして…。本を作っていたときも、出版後に取材を受けていたときも、ずっと闘病していた頃のことを思い出していたから、一時期すごく体調を崩してしまったんです。

石山 ああ…精神的に辛かったのですね。

鈴木 封印したいような辛い過去を掘り続けたから、相当疲れたし、出版後に立て続けに取材を受けたときは「もうこれ以上無理です!」という感じになっちゃった。

石山 それ、わかる気がします。美穂さんと同じく、私もこの『シェアライフ』が初めての著書なので、書き上げるまでの苦しさもあったけれど、世に出る前、出た後にも苦しさを感じました。

鈴木 この前Facebookで「やっと落ち着いて呼吸ができるようになりました」って投稿していたの見ました。呼吸ができなかったんだ…と、その表現にすごく共感しました。

石山 (笑)本当に苦しかったんです。世の中がどう反応するのかが怖くて。批判されたらどうしよう…とか。

鈴木 それは私も。日本テレビで私の闘病中のドキュメント番組を放送したときも怖かったけれど、それよりも赤裸々に表現してしまったから。いくら良かれと思って発信したことでも、人によってとらえ方は違うし、誰がどう思うかわからないですからね。

石山 わかります。

鈴木 でも、後悔はしていないんです。私自身、自分がいかに完ぺきな人間じゃないかよくわかっているので、きれいごとの自伝みたいに終わらせたくなかった。私はこんなに人間臭くてこんなにたくさん失敗もして、七転八倒しながら、でも目指す方向に少しでも近づこうとしている。一歩一歩進んできたから、今ようやくここにいるんだ…ということを伝えたかったから、当時の苦悩も弱みも、うまくいかなかったことも含め、全てさらしました。

石山 私も「隠さずさらけだす」ことは心掛けてはいるのだけれど、ここまではさらせていなかったなあ…と美穂さんの本を読んで思いました。でも、本当は隠しておきたいところにこそ、その人の人生が詰まっているんですよね。

鈴木 そうですよね。ただ、私の場合はちょっと見せすぎたかも。この前、本をもう1回最初から全部読み返したらすごい恥ずかしくなっちゃった(笑)。