「カネの話をするなんて、はしたない」という感覚

「たまには、香山さんに似合わない話をしてみませんか?」。そんな担当編集Sさんの発案から、少々苦手なおカネの話に向き合うことになりました。

 確かに編集者Sさんが察するように、私とおカネは「似合わない」ようです。

 経済的にキツかった研修医時代から今まで一貫して、もらえる給料で何となく満足してしまうタイプの私。貯金ぐらいはしていますが、資産運用というレベルには達していません。投資とはいっさい無縁です。

 いや、もっと正確にいえば、おカネと主体的に関わることを慎重に避けてきたという感じでしょうか。要するに「カネの話をするなんて、そんなはしたないマネはするもんじゃない」、基本的にそういう古風な価値観のもとで生きてきたように思います。

 私のこうしたスタンスには、医師として働いてきた環境が影響しています。東京の大学を出て、研修医として初めて勤務したのは北海道の大学病院でした。そこが、ピューリタン的というか、とかくおカネについて禁欲的なところだったのです。

 医者は医学に仕えるものであり、カネのことは口にすべきではない。激務のわりに給料も非常に安かったのですが、文句をいうなどもってのほか。副業として商業誌に原稿を書いたある医師は、「悪魔に魂を売った」と非難されるほどでした。

 その後、移った道内の別の公立病院でも、おカネの話はタブー。後に、その町が財政破たん寸前で病院もひどい赤字状態だと知りました。けれども、医者は診療に専念し経営に口を出すべからず。そんな厳然たる不文律が存在していたのです。