「働き方改革」が喫緊の課題となっている。そんななか、プレッシャーが増しているのがプレイングマネジャー。個人目標とチーム目標を課せられるうえに、上層部からは「残業削減」を求められ、現場からは「仕事は増えてるのに…」と反発を受ける。そこで、1000社を超える企業で「残業削減」「残業ゼロ」を実現してきた小室淑恵さんに『プレイングマネジャー 「残業ゼロ」の仕事術』をまとめていただいた。本連載では、本書のなかから、プレイングマネジャーが、自分もチームも疲弊せずに成果をあげるノウハウをお伝えしていく。

メンバーを変えずに売上を増やしたマネジャーは、<br />チームの「何」を変えたのか?

「ひとり担当制」がもたらすリスク

「属人化」がチームの生産性を下げる―ー。
 これは、本連載で度々指摘してきた問題です。「属人化」とは、特定の業務が特定の人物しか対応できない状況に陥っていることをさします。これを放置しておくと、その特定業務を抱え込んだ人物の長時間労働が常態化するほか、その人物が病気になったり、両親の介護をする必要が生じたときに、チームの業務が破綻してしまうおそれがあるのです。


 この「属人化」を解消していくためには、連載第22回第24回でもご説明したように、チームの「心理的安全性」を高め、メンバー間のスキル格差を埋める努力が必要となります。その努力を続け、条件がある程度整ってきたら、ぜひ試していただきたいことがあります。それが「複数担当制」です。

「複数担当制」とは下図のように、現在多くの企業で採用されている「一業務ひとり担当制」から、ひとつの業務にメイン担当とサブ担当のふたりをつける「一業務複数担当制」に切り替えるものです。

メンバーを変えずに売上を増やしたマネジャーは、<br />チームの「何」を変えたのか?

「ひとり担当制」は、担当者に情報が集約され、責任も一元化できることから、一見効率がよさそうですが、けっしてそうではありません。実は、これがチームの生産性に大きなデメリットをもたらしているのです。

 というのは、「ひとり担当制」は「属人化」につながりやすく、チーム内の連携プレイを阻害しがちだからです。その結果、業務効率を下げるとともに担当者の急な休みなどにも対応できなくなってしまうのです。

 一方、「複数担当制」に切り替えると、ふたりで情報共有して協力し合うことによって、業務を効率的に進めることができますし、どちらかが急に休むことになった場合にも、業務を止めずにすみます。「属人化」した業務をいつでもフォローできる体制へと変えることができるわけです。

「そのためには、人数を倍にする必要があるのか?」という疑問をもたれる方もいるかもしれませんが、もちろん、その必要はありません。「プロジェクト[1]のサブ担当者が、プロジェクト[2]のメイン担当者も務める」というように、ひとりが複数のプロジェクトを担当すれば、同じ人数で「複数担当制」に移行することができます。

 また、「複数担当制」にすると、「責任の所在があいまいになるのではないか?」と心配する声があるかもしれませんが、それも当たらないと思います。

 むしろ、「ひとり担当制」のほうがリスクが高いというべきでしょう。なぜなら、「ひとり担当制」の場合には、担当者が上司に報告しない限り、情報が明るみに出ないからです。つまり、お客様からのクレームなど、担当者にとって不都合なことが起きたときに、その情報を握りつぶしてしまうという「無責任な対応」ができるわけです。その結果、当然、ミスや不正が起こるリスクも高まるでしょう。

 一方、「複数担当制」であれば、お互いの仕事ぶりをチェックし合うことができますから、「不都合なことを握りつぶす」といったことはできにくくなります。その結果、自然と「責任のある対応」をするようになるのです。

 このように、「ひとり担当制」によって何かが起きたときの責任の所在を明確にするよりも、「複数担当制」によって、そもそもミスや不正が起きにくい仕組みをつくるほうが、健全な組織やチームをつくり上げることができるのです。