『週刊ダイヤモンド』6月15日号の第1特集は「保険 どうなる節税どうする見直し」です。この2年間、中小企業の間で爆発的な人気を得た節税保険(法人定期、経営者保険)。保険会社は節税効果を高めた新商品を次々に投入し、市場規模は瞬く間に8000億円以上にも膨れ上がっています。その異常なほどの過熱ぶりに、国税庁がとうとう「待った」をかけ、業界が大騒ぎになっています。今特集では今なお続く国税庁と生保による攻防戦に大きな焦点を当てながら、恒例のプロの目線による医療やがん保険などの商品ランキング、編集部独自調査による自動車保険ランキングから、大手生損保、保険代理店による激しいシェア争い、手数料競争の実態にも74ページの特大ボリュームで迫りました。

 今年4月10日、生命保険会社42社が集まった拡大税制研究会は、参加した関係者の多くが安堵の表情を浮かべていた。

 その2カ月前、同じ会合の席で国税庁は、新種の節税保険(法人定期、経営者保険)が登場しては、通達で厳しく規制してきた経緯を踏まえて、「業界とのいたちごっこを解消したい」「個別通達を廃止し、単一的な(資産計上)ルールを創設する」と表明。

 さらに新たな税務取り扱いのルールは、既契約についても影響が及ぶことをちらつかせていたが、4月の会合で「遡及はしない」と伝えてきたのだ。

 既契約遡及となれば、業界が大パニックに陥ることは目に見えていた。期待していた節税効果がなくなることで、中小企業からの解約が相次ぎ、果ては企業に販売した税理士などの代理店は早期解約によって、受け取った手数料を保険会社に返す必要に迫られかねなかったからだ。

 遡及なしが決まった4月10日の夜は、至る所で酒宴が催されたが、その数日後、浮かれたムードが一気に消し飛んだ。

 国税庁が示した法人税基本通達の改正案を読み込んでいくと、あることが見えてきたのだ。

 それは、企業経営者に絶大な支持を得ていた医療保険の短期払いスキームが、従来のようには提供できなくなるかもしれないということだった。

 どういうことか。多くの生保は「福利厚生の確保・充実」という名目で、企業経営者に向けて医療保険を販売している。

 さらに、保険料を支払う期間を2年や5年などに短期化させ、時に数百万円に上る保険料を、一気に全額損金として法人が処理するというスキームを組む場合があるのだ。

 関係者によると、一定の節税効果に加えて、契約期間の途中で名義を法人から個人に移せば、保険料をほとんど個人で負担することなく、終身の保障だけを経営者に移すことができるという。

 中小企業経営者のニーズの高まりを受けて、メットライフ生命保険では昨年11月から、それまで最短10年だった保険料の支払期間を、5年に短縮するプランを投入。説明会では企業の事業資金計画上、短期払いできることのメリットが大きいことに加えて、同社の節税保険(米ドル建て介護定期保険)との併売効果が高いことすらも、アピールしていたほどだった。

 短期払いスキームは、メットライフ以外にも、アフラック生命保険や第一生命グループのネオファースト生命保険、東京海上日動あんしん生命保険などにもあるため、業界全体への影響は決して小さくない。

 「解釈の問題だ」(生保役員)とみた業界各社は、財務省OBや大手コンサルティング会社を巻き込みながら、5月の大型連休を挟んで、国税庁や政治家への攻勢を徐々に強めていった。

蚊帳の外に置かれた監督当局

 そもそも、今回の税務ルール見直しを主導する国税庁課税部審理室は、いわゆるノンキャリア組が取り仕切っている。

 財務省のキャリア組との人事交流はほとんどなく、税務のあるべき姿について追求するような姿勢が強い。

 そのため、今回の節税保険の税務ルール見直しにおいても、国税庁として意思決定するに当たり、政治や足元の選挙を含めて総合的な判断をしようとするキャリア組と、正論を振りかざすノンキャリア組とでは温度差があり、かなり議論があったようだ。

 基本通達の改正案は一見すると返戻率に応じた損金算入の割合が大きく減っており、確かに厳しい内容に思える。

 その一方で、返戻率によっては逓増定期保険など一部で損金算入割合が増える商品もあるのも事実。改正案は一刀両断とはいかず、生保業界に一定の配慮をしてバランスを調整したような跡がうかがえるのだ。

 生保業界としては、そうしたキャリア組とノンキャリア組の温度差に突破口を見いだしており、財務省の大物OBを次々に投入しながら、今まさに国税庁と綱引きを演じている真っただ中にある。

 そうして熱を帯びた攻防が最終局面を迎えようとしている中で、その戦いに全く参加できず傍観させられている中央官庁がある。金融庁だ。

 4月以降、基本通達の改正案を見て、慌てたように医療保険の短期払いについて各社に調査票を配っているところを見ても、蚊帳の外に置かれてしまっていることがよく分かる。

 もちろん金融庁は税務当局ではないので、そもそも攻防に加わる必要はないという指摘はあるかもしれない。

 ただ、生保の経営に大きな影響を及ぼす施策について、監督当局である金融庁のグリップが全く利かず、国税庁との連携もろくにできていないという状況が、果たしてベストプラクティスといえるのかどうか。

 審査の過程で節税保険と十分に知りながら、死亡発生率をはじめ純保険料などの設計に特段無理はないとして、商品を認可してしまった一定の責任は、監督当局として当然あるはずだ。

 金融庁はそうした負い目もあって、昨年から認可事項外の付加保険料の設定に狙いをつけた実態調査に踏み切り、あわよくば売り止めにつなげようとしていた。

 ただ、そうした動きも今年2月の国税庁の登場によって、もはや遠くかすんでしまった。

 今回の節税をめぐる問題は、生保や代理店の経営だけでなく、財務省と国税庁の関係性、政治との距離、金融庁の商品認可制度の在り方など、さまざまな問いをあらためて投げ掛けている。

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