6月25日、ドル円は一時106円台へ下落。米国の景況悪化で、7月に利下げかという臆測が広がったためだ。しかし、金利低下期待を受け、株価は上昇した。「株高+金利低下+ドル安(円高)」の組み合わせだ。

 2012年から数年間、米株・金利・ドルはそろって上昇した。それが近年は3者まちまちになり、せいぜい2市場が短期間連動する程度。この相場をどう読み解くか。

 第一に認識すべきは、米景気局面がシフトしたことだ。好景気で株高、金利上昇、ドル円上昇というトレンドは分かりやすい。3市場の上昇をリンクさせるトレードが増えることで連動性が高まる「自己実現相場」になる。しかし、やがて金利上昇が株価を神経質にし、ドルも単純には買えない段階に移る。3市場の足並みの乱れ自体が景気局面のシフトを物語る。

 第二に、低インフレ環境がサイクルを変容させている。かつては、インフレ抑止の高金利が株価と景気を下降させ、次に金利も低下に転じると、ドル円下落も連動するのが典型だった。さらに金利低下が進むと、景気より先に株価が反発する「金融相場」となる。金融緩和は景気底入れ後も続き、金利とドル円がそろって下降する。

 リーマン危機後の09~11年に、「株高+金利低下+ドル円下落」が明快に観察される(上・下図参照)。ここ1、2カ月のこの組み合わせを金融相場局面のドル安とする声もある。しかし、この見方に単純には乗れない。

 本来、金融相場は景気下降局面後半から起こり、新たな景気サイクルの始動を期待する現象だ。しかし、米株価は今も高値圏にある。景気もまだ拡大終盤にとどまる。

 実は、低インフレの潮流が続き、サイクルも変容してきた。金融緩和が長引き、好景気も株高も高じやすい。一方、その反落リスクも高まるが、低インフレのままなら、悪化への予防的利下げも機敏に行える。こうして、景気と株価を永らえさせる綱渡りが続く。

 米トランプ政権は大統領選挙に向けて、中国への姿勢に緩急を付け、景気と株価を支える戦術を取るだろう。景気と株価が過熱感なくしっかりするなら、ドル円も米金利の狭い値動きに連動して110円付近にとどまる目がある。

 それでも、潜在的リスクは下方に広い。すでに完全雇用の米景気に伸びしろは限られる。好景気が続き、緩和期待が減退すれば、株価に失望売りが生じよう。景気が自然にだれても株価は下落しよう。

 09年以降、米株価が金融相場でも、日本株は円高で下落した。日本株もドル円も景気敏感銘柄と認知されている。ドル円が、米金利との連動を断ち切って、100円側に向かうリスクに留意すべきステージが続く。

(楽天証券経済研究所グローバルマクロ・アドバイザー、田中泰輔リサーチ代表 田中泰輔)