約20年間、計5社を再生させてきた伝説の外資トップ、高倉豊。彼は、(1)ライバルは見ない(2)現場は見ない(3)ロジカルに考えない という非常識な方法で、どのように「日本一売れた香水」や「男が買った口紅」を生みだしたのか?高倉氏がこの非常識な3原則に行き着いたのは、「モノなし・カネなし・ヒトなし」の中で20年間もがき続けた結果にある。連載1回目は、「ないない尽くし」で解決策を導き出してきた、高倉氏の原点を紹介する。

「モノなし・カネなし・ヒトなし」でも
工夫次第で何とかなる

 こんなシチュエーションを想像してみてください。

 長年お世話になっている知人から急に電話があり、今から30分後に家に訪ねてくることになりました。それも晩ご飯どきです。

「あの人はすき焼きが好物だったっけ」と思いつつ冷蔵庫を開けると、中にはキャベツと卵だけ。買い出しに行こうと財布を見ると、昨晩飲み会で使ってしまって1000円しかありません。月末の給料日直前で、銀行にも残金はなく、家には自分ひとりしかいません。

「困ったなあ。この前もあの人にはご馳走になっているから、ぞんざいなことはできないよな」などと考えているうちに、時間はどんどん過ぎていきます。

 条件は厳しいけれど、どうにかして知人をもてなしたい。さて、あなたならどうしますか?

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 これは今、多くの皆さんが会社で求められていることと同じだと思うのです。すなわち、「材料(モノ)も、お金(予算)も、人(スタッフ)も限られている中で、どうやってゲスト(顧客)を満足させることができるか」ということです。

 景気のいい時代は、マーケット全体が拡大していましたから、企業の売上は右肩上がりでした。セオリー通りの正当なマーケティングがもてはやされ、何をやってもうまくいったものです。たとえば、カップヌードルの消費者アンケートで、「量が足りない」という意見を反映して大盛りサイズを作ったらたちまちヒットした、という具合に。

 昔はブランドも商品も数が少なかったため、消費者のニーズが明快でした。そしてそれらを満たすことができれば、どんどん売れたのです。プロモーションの予算も潤沢に使えた時代でした。

厳しい条件の中でも、ソリューションは必ずある!

 しかし、現在のマーケットは成熟し、ブランドや商品が溢れ返っています。
消費者のニーズを満たし尽くしていった末に、他社との僅かな差をアピールする企業間の競争に終始しているのが現状です。さらに、長引く不況のあおりを受け、その僅かな差さえ積極的に打ち出すことができなくなっています。大ブランドですら、何かヒット企画があれば次々と便乗。バッグやポーチを付録にしたブランドムックなどはいい例です。

 では、この苦境をどうやって打破すればいいのでしょうか。
「モノなし、カネなし、ヒトなし」のないない尽くしでは、八方ふさがりだと思われるかもしれません。ですが、その厳しい状況で知恵を絞って解決策を見出すことこそ、今皆さんに求められていることなのです。

 冒頭の例であれば、小麦粉と豚コマ肉を買ってきて、お好み焼きを作ることだってできる。混ぜて焼くだけですから、時間もかかりません。具はどんなものでもお好み焼きになりますから、客人の好みによっていろいろ工夫できそうです。そもそも、家庭料理というのは、ありあわせの材料を工夫するからこそ美味しくなると言いますよね。