ケインジアンvs.新古典派

 経済思想にはいろいろな流れがあり、それぞれが時代ごとに対立してきた。

 特に重要なのが、市場メカニズムの重要性を強調し、政府による規制や介入はないほうがよいと考える「新古典派」と、政府による介入や規制を重視する「ケインジアン」的な考え方の対立である。

【新連載】<br />「大いなる安定」が終わった後に必要な<br />シュンペーター的思想とは?いとう もとしげ/1951年静岡県生まれ。74年東京大学経済学部卒業、79年ロチェスター大学Ph.D.(経済学博士)取得。専門は国際経済学、ミクロ経済学。ビジネスの現場を歩き、生きた経済を理論的観点も踏まえて分析する「ウォーキング・エコノミスト」として知られる。経済戦略会議、IT戦略会議など政府の委員を数多く務める一方、テレビ東京「ワールドビジネスサテライト」コメンテーターなどメディアでも活躍中。

 ケインジアンは、政府によるマクロ経済政策における微調整(fine tuning)の重要性を説き、戦後の主要国の経済政策に大きな影響を及ぼしてきた。経済システムについては、政府の規制の重要性を重んじ、市場の持つ暴力性について慎重な考え方である。

 こうしたケインジアン的な政策手法は、戦後から1970年前後まで有力であった。しかしその後、新古典派的な考え方に浸食されるようになる。70年代に世界を襲った大インフレは、ケインジアンのマクロ経済政策の考え方に大きな修正を求めていった。

 シカゴ学派の経済学者ミルトン・フリードマンは、マクロ経済政策の裁量性を最小限に抑え、ルールに基づいた政策運営を行うことを強く主張した。景気の状況に合わせて微調整するのではなく、マネーサプライを安定的に保ち、均衡財政を維持する政策運営を求めたのだ。そして、規制緩和、貿易自由化、民営化を徹底して、市場メカニズムを最大限に活用することを求めた。米国のロナルド・レーガン大統領、英国のマーガレット・サッチャー首相などの政策運営は、こうした考え方に大きな影響を受けることになる。