談合

「否認すれば部下が罪をかぶる」
メモを押収された実直な幹部の自白

「部下は守らなければと思った」――。

 大手ゼネコン清水建設の元幹部は、すでに関与を認め不起訴となったリニア中央新幹線関連工事受注における談合事件を扱う裁判の公判に証人として出廷し、感情を抑えながらとつとつと語った。談合を仕組んだ悪人の顔はまるでなく、部下に罪をかぶせないよう自白した、ただただ真面目な勤め人の姿がそこにはあった。

 リニア談合事件は、JR東海が2027年開通を目指すリニア中央新幹線の品川駅と名古屋駅の工事業者選定に際し、指名された大手ゼネコンの大林組、鹿島、清水建設、大成建設が互いの入札予定金額の情報を交換し、受注者をあらかじめ決める談合をしたとされるものだ。

 大林組と清水建設はすでに罪を認め、18年10月に罰金刑が言い渡された。残る鹿島と大成建設については、品川駅と名古屋駅の建設における独占禁止法違反を問う裁判が今年2月に始まった(下図参照)。

 冒頭の清水建設元幹部は、自身を「メモ魔」と呼ぶ。誰に見せるわけでもないが、人と会う前には必ずノートに話すべき項目や必要な数字を調べて書き、分からないことは関係者に聞いて準備をしていた。面会後は備忘録として会話の内容を同じノートに書き留め、併用しているスケジュール帳には場所や相手の役職などを細かく書き残していた。

 供述の様子からは責任感や、丁寧に仕事をしてきた実直な人物像がうかがえるが、彼の詳細なメモは、皮肉にも裁判で重要な“証拠”となった。

 検察側の証拠は取り調べの成果のほか、関係者が残した詳細な記録から挙げられているが、多くの事実関係は、彼や他社のこれまたまめなゼネコン社員のメモや資料によって固められたであろうことは想像に難くない。