eSportsで出遅れた日本の生きる道

最終回となる今回は、eSportsを取り巻く最新のトピックスを紹介し、それらを踏まえて日本らしいeSportsについて考えてみたいと思います。(KPMGコンサルティング ヒョン・バロ)

次世代eSportsは
AI同士の対戦になる?

 ビジネスにAIを活用する企業が昨今増えていますが、AIの歴史にゲームが果たす役割は非常に大きいものでした。

 チェスというマインドゲームを通じてIBMの「DeepBlue」という人工知能が脚光を浴び、囲碁では「AlphaGo」というパワフルな人工知能が開発されました。それに留まらず、eSports領域でも影響力が持続されています。

 例えば、イーロン・マスク氏を中心に設立した非営利団体の「OpenAI」が製作した人工知能は、eSportsの中でも難度の高いMOBA(マルチプレイヤー・オンライン・バトル・アリーナ)というジャンルの代表的ゲームである「DotA2」をプレーすることができます。このゲームはチェスや囲碁のように1対1ではなく、5対5で戦うチームプレーゲームであり、非常に複雑な戦略を必要とします。OpenAIの人工知能は1機で5人分の戦略が実行でき、すでにDotA2の人間のチャンピオンチームに勝っています。2019年4月時点で、対人間の勝率は約99.4%と圧倒しています。

 eSportsの競技としての定義の問題もありますが、「人vs人の対戦」だけでなく、今後は「人vsAI」や「AIvsAI」の競技が誕生する可能性もあります。

eSports開発チームは
優秀な人材の宝庫

 というと、AIとゲームは対立しているように感じられるかと思いますが、実際はその逆で、AIエンジニアの中にはゲームやeSports愛好者が多いことが知られています。

 しかも、eSportsの心臓部であるゲームコンテンツは先端ITの塊です。特に大規模なオンラインゲームを開発するには、プログラマーをはじめITアーキテクト、3Dグラフィックデザイナー、ネットワークエンジニア、サーバ管理エンジニアなどITの広い領域にわたる専門家を必要とします。ゲーム開発で培った専門人材と技術基盤は、他の先端技術産業にも貢献していくことが考えられます。

 例えば、Unityという開発プラットフォームは、元々ゲームエンジンを作ることに主に使用されていましたが、現在はVR/AR/MRのようなウェアラブル機器のアプリケーション開発にも中心的に使用され、マイクロソフト社のHoloLensなど全世界のB2Bビジネス環境として利用されています。