「法人の顧客接点」が生む強さPhoto by Nanako Ito

2014年に上場し、海外では大型M&Aを連発。19年3月期決算では2兆3100億円と過去最高の売上高をたたき出し、絶好調のリクルートホールディングス。12年のCEO就任時から「リクルートをITカンパニーに変える」と豪語してきた、峰岸真澄代表取締役社長兼CEOは、ここに至るまでにどんな手を打ってきたのか。そしてどこへ向かうのか。直撃して聞いた。(聞き手/ダイヤモンド編集部 相馬留美)

「モノ」はアマゾン
「コト」はリクルートに

――リクルートのかつてのビジネスの基盤は情報誌などの紙媒体でしたが、今では「リクナビ」などをはじめとするウェブサービスが中心に変わりました。御社はテクノロジーをどう活用してきたのですか。

 リクルートは製造業ではないので、テクノロジーといってもロボティクスやハードについては直接的な影響はありません。ですが、もともとリクルートの全てのサービスが、個人と企業を情報で結び付けるマッチングビジネスですので、インターネット関連のテクノロジー全てに影響を受けます。なんとか4.0とか、なんとか3.0とか、昨今日本でもバズワードになっていますが、「ネットとリアルな社会との接続」に関する予兆はもう10年前から感じていて、そこに対して手を打ってきたというのが前提です。

――予兆というのは。

 パソコンやネットの登場です。これによって結局何が起こるのかという議論はずっとしていたのですが、 “主権”が供給者サイドから個人サイドに移るという圧倒的な変化が起きるだろうということは分かりました。いつでもどこからでも多くの人たちに個人の考えを伝えられるようになり、そこに対して企業はアジャスト(調整)する形で、いつでもどこでもパーソナライズドな情報を提供していくことを迫られる。そうなっていくんだというのが当時感じた予兆でした。

 今の会社のミッションは「Faster, simpler and closer to you.」。つまり、より近くに寄り添ってサービスを提供していくことで、利用者が簡単に早く済ませることができるようにするということです。

「マッチングビジネスとは何なのか?」というと、個人と企業を情報で結ぶときのマッチングプラットフォームなんですよ。「モノ」の流通はEコマースといいますが、私たちは「コト」、人生の節目や日常の消費に至る活動のマッチングプラットフォームをつくっています。

 この「コト」のマッチングプラットフォームをつくっていくときに前提となるのが、この「コト」の情報をネットの空間に提供してもらうことなんです。この「コト」の“在庫情報”が、ネット空間にまだまだ提供されていない。

――情報がないということですか。

 在庫情報そのものはあるんですが、例えば旅先でアクティビティがしたいと思ったときに、予約管理を紙でチェックしているお店なら、ネット空間に情報がない。私たちはマッチングプラットフォームを通じて、パソコン時代はパソコン用に、スマートフォン時代はスマホ用にアップデートしてきて、ネット空間上の「コト」、すなわち在庫情報をデジタル化して、ネット空間にためてきました。

――情報とは、データのことですね?

 そうです、ビッグデータ。私たちが在庫と呼ぶのは、求人でいえば採用の情報、「ホットペッパービューティー」でいえば「スタイリストの空いている枠」、「ゼクシィ」なら「専門式場の宴会場の空いている時間」が在庫情報です。かつては企業さんがいろんなフォーマットで、人の手でいろんな書き方をして、きれいな情報を生成してきたわけです。ところが、今はフォーマットを統一して自動で当てはめていくことがテクノロジーでできる。

 在庫情報がネットの空間に出ていくことで、テクノロジーによってその情報が精製され、機械学習によって最適化され、個人が本当に欲しいときにピッタリの情報を提供できるようになってくるわけです。

 これは「モノ」では米アマゾンがやっていまして、「コト」でやっているのが私たち。企業と個人に便益を提供できると信じてやっているわけです。

 一方で、実際にリアルな空間でその便益を提供できた場合、企業が本業に集中できるようになっていただくことが大切です。私たちの取引先の多くを占める中小企業や個人事業主、しかもサービス産業の皆さんが、人手不足の影響で、間接的な業務に時間を取られて本業に集中できない状況下にある。

 ですので、現在こういった顧客に対して力を入れているのが、業務支援や経営支援のサービスです。例えば、クラウド型のPOS(販売時点情報管理)レジである「Airレジ」は、アプリケーションをダウンロードしてもらい、メニューを登録すれば注文が取れて、会計処理につながり、売り上げの分析もできる。お店が本業にフォーカスできるようになっていただくことによって、個人へのサービスに還元できる、この循環をしっかり回していく。

 テクノロジーというのは急に変わっていくわけではなく、徐々に変わっていくので、こういうことをしっかり続けることで、変化への対応力も付くのではないかと、すごく気を付けてやっています。