もしあなたが突然、社長に就任することになり、会社の経営を立て直さなければならなくなったとしたら、どうしますか? 『なるほど、そうか! 儲かる経営の方程式』(相馬裕晃著、ダイヤモンド社、8月22日発売)は、つぶれそうな会社をどうしたら立て直せるのかをテーマにしたストーリー仕立てのビジネス書です。主人公は、父親に代わって急きょ、経営トップに就くことになった27歳の新米社長・千葉早苗。本書のテーマは、MQ会計×TOC(制約理論)。MQ会計とは、科学的・戦略的・誰にでもわかる会計のしくみのこと。MQ会計をビジネスの現場で活用することにより、売上至上主義から脱して、付加価値重視の経営に舵を切ることができます。もう1つのTOCは、ベストセラー『ザ・ゴール』でおなじみの経営理論。経営にマイナスの影響をもたらす要因(ボトルネック)を集中的に改善することにより、企業の業績を劇的に改善させることができるというものです。本連載では、同書から抜粋して、MQ会計×TOCでいかに経営改善できるのかのポイントをお伝えしていきます。

融資打ち切りの危機

【あらすじ】
東京墨田区にある老舗時計部品メーカー「千葉精密工業」は、製造部と営業部の行き過ぎた部分最適の結果、業績が悪化。米国ファンドから出資を受け入れて危機を一時的に回避したが、1年後に業績が回復しなければ経営権が完全に奪われてしまう事態に。
新米社長の千葉早苗は、会計士でコンサルタントの川上龍太のアドバイスを得て、MQ会計やTOCの理論を学び、経営の立て直しを図るが……。果たして、早苗は1年で会社を立て直せるのか?

険悪ムードの社内会議

 2018年4月13日。今日は製造部と営業部の幹部が集う「製販会議」の日だ。会議室には険悪な空気が流れていた。

 「松本時計のムーブメントの品質問題は、いつ解決するんだ?」

 営業部の山崎常務が製造部にかみついた。

 山崎は、松本時計との大型商談をまとめてきたが、今回のクレーム問題で、交渉の矢面に立たされており心中穏やかではない。

 「申し訳ありません。今、全力で対応しているので、もう少しお待ちください」

 製造管理課の広瀬智子が答える。智子は工学部を卒業後、千葉精密に新卒で入社。昨年、32歳の若さで課長に就任した。いわゆる「リケジョ」である。

 「先方は、かなりご立腹だ。品質で選んでもらったのに、品質トラブルを起こすなんて、千葉精密の信頼はガタ落ちだよ」

 「品質問題を製造部だけに押しつけるつもりか?」
 専務の島田が議論に割って入り、山崎に反論した。

 「営業が無理な売価を設定するから、製造部にコスト削減のしわ寄せがきているんだ」

 「コストを下げてくれとはお願いしたが、品質を下げてくれとは言ってませんよ!」
 山崎は吐き捨てるように言った。

 「それだけじゃない。納期だって今までほとんど遅れたことなんてなかったのに、最近は納期を守れないことが常態化しているじゃないですか!」
 山崎は島田と智子をにらみながら、大声を上げた。

 「申し訳ありません。品質問題に加えて、新規の仕事も増えているので、なかなか生産計画通りにはいかなくて……」

 「製造部は、営業部が仕事をとってくるのが迷惑のようだね?」
 謝る智子に対して、山崎は皮肉で返した。

 「それじゃあ、トーケイ社向けのムーブメントは、いつ納品できるんだ? 営業が今期は前期の2倍の注文がとれるというから、工場をフル稼働で製造した。それなのに納品したのは半分だけじゃないか?」
 島田は論点をすり替えて、もう一つ社内で問題になっている滞留在庫に言及した。

 「トーケイ社の当初の販売計画では、『M36G』の売上は2倍になるはずだった。でも実際には、当初見込んだほどは売れなかったんだから仕方ないでしょう」
 山崎が視線をそらして答える。

 M36Gはトーケイ社の主力商品だ。しかし、プロモーションが上手くいかずに販売が伸び悩み、部品を提供している千葉精密もその影響を受けていた。

 「仕方ないですまされる問題じゃないだろう! 残りの半分は出荷されないまま在庫として倉庫に積んである。こんなに在庫を抱えて3月の決算を迎えたのは初めてだ」

 「製造にもM36Gの販売状況は伝えていましたよね? それなのにかなり早い段階から、すべての部品を手配済みで、製造ラインを止めなかったのは製造部の責任でしょ!」

 「それは営業が要求していたコストまで下げるためには、もともとの予定数量を作らないといけない。作る数を減らせばコストは高くなるから、製造を止めたくても止められないんだ!」