アメリカ・ヨーロッパ・中東・インドなど世界で活躍するビジネスパーソンには、現地の人々と正しくコミュニケーションするための「宗教の知識」が必要だ。しかし、日本人ビジネスパーソンが十分な宗教の知識を持っているとは言えず、自分では知らないうちに失敗を重ねていることも多いという。本連載では、世界94カ国で学んだ元外交官・山中俊之氏による著書、『ビジネスエリートの必須教養 世界5大宗教入門』(ダイヤモンド社)の内容から、ビジネスパーソンが世界で戦うために欠かせない宗教の知識をお伝えしていく。

「結婚・離婚・出産」に対する「世界の宗教」の考え方<br />

「ユダヤ教徒、イスラム教徒は子だくさん」は事実なのか?

 経済発展をとげたほとんどの国で、社会問題となっているのが少子高齢化。急激に増えた中国の人口でさえ、二〇三〇年代に減少に転じるといわれています。

 世界的に見て出生率が高いのは、アフリカの国々です。その背景には、労働力への期待、高い乳幼児死亡率、子どものうち一人が成功すれば家族全体が恩恵を受けられるなど、多くの社会経済的要因があります。

 私は、神戸情報大学院大学において、多くのアフリカ人留学生としばしば議論しますが、アフリカでの人口増加問題について、「欧米の視点のみで議論してもらっては困る。アフリカはまだまだ発展途上であり、労働力が必要」といった意見を多く聞きます。

 欧米や日本の視点からは、地球全体の食料やエネルギーの限界があるため、アフリカの人口増加を問題視する見方もありますが、それは一面的だということです。

 このように出生率が、社会経済の現状や人々の価値観に左右されることは明らかです。ただし、宗教が全く無関係とも言えません。実際、今も昔も結婚して子どもを産むことを大切にしているユダヤ教徒、イスラム教徒の出生率は比較的高く、人口増加につながっています。また、日本の宗教と言える仏教と神道のいずれも、「子どもを増やせ」という教えがない点も一応押さえておいて良いでしょう。

 「子どもを産む」ということを一神教は非常に強くすすめており、旧約聖書にも「産めよ、増やせよ」といった教えがあります。アメリカ映画では「カトリック=子どもが多い」という描写が昔からありますが、現代が舞台の作品でもしかりです。

 たとえば、カトリックの家庭で育った女子高生が主人公の映画『レディ・バード』で「あの家はカトリックだから子だくさんなんだね」という会話が普通に出てきます。もっとも先進国は少子高齢化傾向があるので、カトリックであるからといって統計的に出生率が高いとは言い切れません。

また、「結婚して、たくさん子どもをつくって」という伝統を重視するカトリックは、離婚について非常に厳しい宗教です。

 フランスで入籍しない事実婚という制度が生まれた背景には、いったん結婚すると離婚が難しいカトリック文化があるという説もあります。同様にアイルランドも、事実婚や未婚での出産が珍しくありません。法の縛りが消えても、カトリック文化に根ざす社会的なルールは、そう簡単には変わらないということでしょう。

 イスラム教においては、離婚の手続きがコーランに書かれています。結婚前の契約に離婚の際に支払う額が決められることもあるなど、手続き上は合理的に離婚が認められています。