1979年に発売された『ジャパン・アズ・ナンバーワン アメリカへの教訓』は80年代にかけて一大ブームを巻き起こし、累計70万部のベストセラーとなった。その著者であるハーバード大学のエズラ・F・ヴォーゲル名誉教授は、米国の東アジア政策に影響を与えつづけている“知の巨人”である。今回、ヴォーゲル教授が日本読者のために語り尽くした新刊『リバランス 米中衝突に日本はどう対するか』(聞き手・加藤嘉一)の刊行に寄せて、世界のパワーバランスの変化にともなって特に気になる日中関係を中心に寄稿いただいた。

 今回の拙著『リバランス 米中衝突に日本はどう対するか』は、米日中関係に生じた変化を論じつつ、日本の針路を検討したもので、それを表すタイトルの『リバランス』も気に入っている。

エズラ・F・ヴォーゲル教授「2008-2010年が日中関係“リバランス”の転換点だった」エズラ・F・ヴォーゲル先生

 1895-1896年の日清戦争の時期まで、中国は日本について小さく、弱く、取るに足らない国とみなしていた。日本のことを学ぼうとした中国人は、ほとんどいなかったであろう。

 ところが、日本が戦争に勝ったことは、中国人に衝撃を与えた。戦後すぐに、孫文、康有為、梁啓超など中国の重要な指導者たちが動いて、日本を訪れた。1896年から1931年に満州事変が勃発し戦争が始まるまで、中国は周恩来、周作人、魯迅、廖承志など数万人を日本に派遣し、日本から多くを学びました。1895年から1945年まで、日本は支配的な大国であり、経済的にも軍事的にも中国をしのいでいた。

 ご存知のとおり、第二次世界大戦後、日本は軍国主義を放棄した。このため中国に対しても、それ以降は軍事的に押さえつけようとはしませんでしたが、経済的には(実質的な)支配が続いたと言えるだろう。

 しかし、大きな転換点を迎えたのが、2008~2010年である。

 2008年、中国は巨大かつ近代的な北京オリンピックで大きな成功を収めた。一方で、西側諸国は金融危機によるダメージを受け、もはや中国の指導者にとって、西欧諸国はそれほど成功していないように映った。世界銀行のデータによれば、2010年には、中国経済の規模は日本経済の規模をついに追い抜いている。したがって、2010年までに、日中関係のバランスが再調整され“リバランス”されたのである。

 このように、1895年から2010年の間に、日本が両国の関係において支配的な力を持っていた時期からの再均衡(リバランス)がはかられた。中国が支配する新しい状況下で、両国が再び協力できる機会はない。ただし中国の優位性といっても、あらゆる分野で中国が日本を上回っていることを意味するわけではない。日本人は依然として、中国人よりも平均して高い生活水準を享受しているし、先進的な工業生産に優れている。

 リバランスをすぐに解決することはできないが、両国の人々は、数年前よりも強大な中国を再び目にしている。つまり、日中関係は新たな時代に入ったのである。新時代には、あらゆる分野でより深い関係を構築し、各国の利益、そして全世界のために協力する機会がおとずれるだろう。

 最後に、今回、加藤嘉一さんと協力してこの本を制作できたことを大変うれしく思っている。

 彼は中国だけでなく、私が働いていたことのある日本はもちろん、米国についても深く理解している数少ない人材の一人である。彼は中国の大学に通い、また米国でも研究し働いていたので、日本人としては日米中の三国について稀にみず深く理解している。私の著書を、加藤さんがどれほど深く読んでいるかにも驚かされた。彼は中国と日本をよく知っているので、私が何について研究し論じようとしたかをも、すぐに理解できた。今回の彼との有意義な議論をまとめたこの本が、日本の読者の皆さんに広く読んでいただけることを、心から願っている。