帰省ラッシュ真っ盛りの8月10日、静岡市でMaaSに関するシンポジウムが開催された。事業者などが参加するのかと思いきや、多数の一般市民が参加して400名の会場は満員。生活を便利に変えると言われる「MaaS」は、果たして静岡市民の期待に応えることができるだろうか?(鉄道ジャーナリスト 枝久保達也)

一般市民が多数参加した
静岡型MaaSシンポジウム

静岡市「MaaSセミナー」に市民が殺到写真はイメージです Photo:PIXTA

 お盆を直前に控え、帰省ラッシュがピークを迎えた8月10日、筆者は家族連れや外国人旅行者で大混雑する東京駅から東海道新幹線「こだま」号に乗り込んだ。向かったのは静岡市静岡駅、目的地は「静岡型MaaS基幹事業実証プロジェクト」が主催するシンポジウム会場である。

 冷夏が心配された7月は何だったのかという猛暑の中、筆者は帰省ラッシュど真ん中の土曜日に動員される関係者の心中を想像しながら、JR静岡駅から500メートルほど離れた会場に向かった。ところが現地に到着してみると、想像とは全く異なる光景が広がっていたのである。

 このシンポジウム、今年10月から12月にかけて実施される「静岡型MaaS実証実験」に先駆けて、MaaS(「脱マイカー依存の切り札!?鉄道事業者間でブームの『MaaS』とは」参照)を新たな社会インフラとして位置付けて静岡市の未来交通のあり方を考えるというテーマで行われたものである。

 そのため筆者は、参加者のほとんどは交通事業者と行政の関係者だろうと想像していたが、実際には多くの一般市民が参加しており、定員400名のホールがほぼ満席となっていたのだ。後でスタッフに聞いたところによれば、会場に入れなかった飛び入り参加希望者も多数いたという。

 シンポジウムで基調講演を行った、日本大学特任教授・筑波大学名誉教授で日本のMaaS第一人者として知られる石田東生(はるお)氏も、東京ではMaaSと名の付くセミナーやシンポジウムは、すぐに枠が埋まる「MaaSブーム」が起きているが、それらの参加者のほとんどがビジネスチャンスを求める事業家、経営者であるのに対し、今回は年齢層も幅広く、さまざまな「市民」が参加している印象と述べ、静岡における注目度の高さにお墨付きを与えている。

「静岡型MaaS基幹事業実証プロジェクト」は、静岡鉄道を代表幹事に、静岡市や静岡鉄道、静岡銀行などが中心となって、今年5月27日に発足したばかりの組織である。今回のシンポジウムも、単に市民に開かれた勉強会としてではなく、MaaS事業の最初の一歩を市民に発信する機会であると明確に位置付けられていたことが特徴だ。