山奥に造られた巨大プールの愚
水の貯まらない「底抜けダム」

 まるで山奥に巨大なプールを造るようなものだ。農水省九州農政局は6月18日、水漏れにより利用ができずにいる大蘇ダム(熊本県産山村)を全面補修する案を発表した。

 ダムののり面や底面など地盤全体にコンクリートを吹き付け、水漏れを防ぐという。コンクリートで巨大な器を造り、その中に水を貯めるというものだ。工事費は約100億円にのぼる見込みで、九州農政局ではダム水を利用する地元の自治体にも追加負担を求める方針だという。

 日本は世界に冠たるダム大国で、建設の実績と技術力の高さで他国を圧倒している。しかし、その一方でとんでもない欠陥ダムを生み出していた。代表事例が、水の貯まらない底抜けダムだ。ダム湖の底やのり面から水が漏れ出し、計画通りに貯水できないという欠陥品である。

「まさかそんなバカなことが」と思うだろうが、本当に漫画みたいなダムが日本社会に存在している。それも2つもである。

 熊本県の大蘇ダムと北海道の東郷ダムが、その「底抜けダム」である。いずれも農水省が農業用ダムとして建設したもので、完成後に水漏れが発覚し、水利用ができずにいる。

 大蘇ダムは、熊本県産山村を流れる大蘇川をせき止めて造られた。農水省九州農政局が「大野川上流農業水利事業」として建設したもので、計画上の有効貯水量は約390万トンとなっていた。

 受益地は大分県と熊本県に広がり、延べ2158ヘクタール。畑作が中心で、受益地の7割以上を大分県竹田市が占める。ハウスでのトマト栽培を手がける農家が中心だった。

 大蘇ダムの堤本体が完成したのは、今から8年前の2004年のこと。工事は基礎掘削時に亀裂が見つかるなど、難航を極め、1979年の事業着手から4半世紀もの時を要した。計画変更は2度に及び、事業費は約595億円と当初(約130億円)の4.6倍にまで膨れ上がった。