この夏、第二弾が発売され、さらなる人気を博している『わけあって絶滅しました。』シリーズ。ユーモアな語り口が特徴の図鑑でありながら、「なぜ絶滅が起きるのか?」という深い問いも込められており、子どもから大人まですべての世代の心を掴んでいる。そこで、著者の丸山貴史さんが、本では語り切れなかった話とともに、お勧めの昆虫について解説する全3回の特別企画をスタート。第2回は『続 わけあって絶滅しました。』に登場する「メゾサイロス」についてお届けする。本連載を読んでから本を読めば、絶滅動物の面白さが倍増するはずだ。

子どもに見せたい、感動の「セミの羽化」

 セミの鳴き声を聞くと「ああ、夏が来たなあ」と感じますよね。小さいお子さんがいらっしゃったら、声を聞くだけでなく、是非「セミの羽化」を見せてあげてほしいと思います。羽化とは、昆虫の幼虫(またはさなぎ)が、脱皮して成虫へと変態する行為。その瞬間を目にすれば、きっと生命の不思議を感じることでしょう。

 しかしこの脱皮という行為、実は命がけなんです。そのため過去には、脱皮が命取りになって絶滅した昆虫もいたと言われています。そこで今回は、巨大昆虫「メゾサイロス」についてお話ししたいと思います。

長さ1mの巨大ゼミ!羽化に時間がかかって絶滅?セミの羽化は非常に神秘的。ぜひ一度、子どもと一緒に見てほしい

長さ1mの巨大な昆虫「メゾサイロス」

 メゾサイロスは古生代の石炭紀に生息していたムカシアミバネムシの仲間の最大種です。ムカシアミバネムシの仲間は、カゲロウの仲間と並んで、地球で最も早い時期に空を飛べるようになった生物だと考えられています。しかも、ムカシアミバネムシの仲間はなぜか6枚の羽を持っており、メゾサイロスも4枚の長い羽の前に2枚の短い羽を持っていました。

 ちなみに、昆虫の羽は基本的に4枚です。6枚の羽はあまり飛ぶのに有利ではなかったようで、より新しい時代のムカシアミバネムシの仲間からは、4枚羽のものも現れました。

長さ1mの巨大ゼミ!羽化に時間がかかって絶滅?『わけあって絶滅しました。』ダイヤモンド社 イラスト:サトウマサノリ

 さて、このメゾサイロスの特徴ですが、とにかく巨大でした。どれくらい大きかったかというと、羽を広げると横幅が56cm、しっぽの先にある尾角まで入れると長さは1mほどもあったようです。だいたい、滑空するときのムササビと同じくらいの大きさですね。

 よく世界最大の昆虫と言われるメガネウラは、羽を広げると70cmくらいありましたが、メゾサイロスはそれに次ぐほどの巨大昆虫だったわけです。

脱皮に時間がかかって絶滅?

 それだけ大きかったメゾサイロスがなぜ絶滅してしまったか……。そのワケをお話しする前に、まずは昆虫の「羽化」というものについて説明したいと思います。

 昆虫は外骨格といって、硬くなった体の表面で体全体を支えるモノコックボディを採用しています。しかし、外骨格は伸縮しないので、大きくなるには古い外骨格を脱ぎ捨てて、新しい外骨格を作らなければなりません。これが「脱皮」です。

 表面を硬くすることで防御力も高められる一石二鳥のシステムではありますが、難点もあります。体を覆っていた硬い殻を脱ぎ捨てるので、脱皮をしたばかりの体はとても柔らかいんです。そして、新しい外骨格が硬くなるまでには時間がかかります。

 つまり、脱皮中の昆虫は非常に無防備な状態なのです。

 しかも脱皮は、一生に一度では済みません。昆虫は成虫になるまで何度も脱皮をしますが、その中でも最後の脱皮(羽化)にはとくに時間がかかります。体も大きくなっているうえに、羽を伸ばさなくてはいけないからです。

 たとえば皆さんがよく目にするアブラゼミ。成虫になる直前のアブラゼミの幼虫は、夜になると地中から出てきて、2時間くらいかけて羽化をします。さらに、表面的には羽化が終わったように見えても、すぐに飛んだり鳴いたりすることはできず、朝がくるまでジーッと動かずに体が硬くなるのを待っているんです。

 そんなアブラゼミよりもはるかに大きいメゾサイロスの羽化には、一体どれだけの時間がかかったのでしょう。最大級のカニであるタカアシガニは、脱皮に6時間かかったという記録があります。メゾサイロスの羽化にどれくらい時間がかかったのかわかりませんが、おそらく一晩中かけていたのではないでしょうか。

 ちなみに脱皮したてのセミは色素がなく、とても綺麗な白い色です。でも、やわらかい外骨格が固まっていくにつれて、色素が合成されるため、色が着いていきます。メゾサイロスも同じように、脱皮直後は目立つ白色で、体がやわらかかったはずです。

 これだけでも充分無防備ですが、なんとメゾサイロスの幼虫は、敵がうようよいる陸上で暮らしていたのです! 淡水に生息していたカゲロウやトンボの幼虫より、はるかに狙われやすかったことは推して知るべし、ですよね。

 そんなことを思いながらセミの羽化を見ると、きっと感慨深いものがあるはずです。