「中国政府の手先」米国が名指しするハイテク企業3社の正体

米トランプ政権の対中政策が「ルビコン川を渡った」のは、2018年8月に国防権限法(NDAA2019)が成立したときだ。中国のハイテク企業5社を名指しして、安全保障上の懸念があるため米国の政府調達に関わることを禁止。そしてこれ以降、米国は個別の中国企業への強硬姿勢をあらわにするようになった。中国政府によるエコノミック・ステイトクラフト(国益に基づく経済政策)の手先とにらんだ企業に次々と、禁輸措置や投資制限を下している。全4回特集「国益と経済 経済安全保障の時代」の第3回では、「国益の手先」とされた企業と中国政府との関係に迫った。(ダイヤモンド編集部副編集長 杉本りうこ)

業容17倍の驚異的成長
「われこそ急成長の立役者」

 前述の5社に含まれ、禁輸措置の対象にもなった中国の通信設備大手ファーウェイ(華為技術)は、こういった米国政府の行動に猛反発している。「米国は総力を挙げて一民間企業を追及している。正常ではなく、歴史的にも類がない。(中略)ただそこにあるのは、臆測のみだ」(宋柳平・最高法務責任者の今年5月の声明)。一連の政策は米中の当事者のみならず、世界のサプライチェーンをきしませ、日本を含む各国の企業にも打撃を与えつつある。確かにこれが事実無根の鉄ついなら、国際社会からの協調は得られない。

 実のところ米国が問題視する企業はどの程度、中国政府とじっこんなのか? 手先と呼ばれるほどに政府と利益を共有する仲なのか? NDAA2019で名指しされた5社のうち、ファーウェイ、ハイテラ(海能達通信)、ハイクビジョン(杭州海康威視数字技術)の3社(NDAA2019での登場順)について、中国政府との関係を探った。 

 米国政府から最も厳しい追及を受けている中国企業はファーウェイだろう。資本上は完全な民間企業であるファーウェイ。政府との関係というと、創業者の任正非氏が人民解放軍出身だったことが取り沙汰されがちだ。だが真に注目すべきは、ビジネスそのものである。

 未上場企業のファーウェイについて、公開されている最も古い業績数値は2005年のデータだ。当時の売上高はドル換算で約60億ドル。業界の最大手だったスウェーデン・エリクソンの3分の1以下だった。それが直近の18年には1051億ドルに達し、エリクソンの4.4倍になっている。通信市場自体が成長したとはいえ、13年で業容17倍とは驚異だ。なぜここまでの急成長が可能だったのか。「われこそがファーウェイの急成長の立役者」と言って関与を隠さない組織がある。中国の政府系金融機関、中国国家開発銀行(開発銀)だ。

 開発銀は中国の産業育成や経済外交の戦略に従ったプロジェクトに、中長期の資金を供給する。中国で言う「開発性金融」を主に担う銀行だ。この開発銀が自社サイトで、ファーウェイの驚異的成長の理由を解説している。以下に紹介しよう(一部省略して翻訳)。

「元々無名の民間企業だったファーウェイは、今では世界でも名だたるメーカーだ。この『ファーウェイの奇跡』の裏側には、開発性金融がある。開発銀は04年12月、ファーウェイに100億ドルの融資枠を設定した。同社が国際市場に参入し、5年以内に海外売上高100億ドルを超えられるよう支援したのだ。開発銀の巨額融資という加護があったからこそ、ファーウェイは(海外売上高の)目標を2年も前倒しで達成でき、金融危機(リーマンショック)に逆らって成長できた。 開発銀は海外の通信事業者に対し、ファーウェイの設備を買うための融資を行う。これによって開発銀とファーウェイ、海外の通信事業者は互恵的な鉄の三角形を構成してきたのだ」

 ファーウェイの海外展開に対し、政府系金融機関が産業政策として手厚い貿易金融を提供する構図。ファーウェイは開発銀以外からも同様に貿易金融の支援を受けており、その扱いは中央政府直轄の大手国有製造業と同等。ハイテク分野で輸出競争力のある企業を育成するという2000年代初頭からの中国政府の産業政策に合致したからだろう。

 これを米国は12年ごろから、「販売拡大を助ける不当な輸出補助金」の代表例として批判してきた。貿易金融自体は米国を含むあらゆる国に存在する。ただ融資条件次第では輸出補助金と見なされる余地があり、世界貿易機関(WTO)は輸出補助金など自国製品の国際競争力を高めるための補助金を原則禁じている。