いまや企業の買収・合併は、珍しくもない時代である。連日M&Aのニュースが飛び交い、どの業種においても、強い企業への統合・再編が進んでいる。こうした傾向は、実は企業だけに限ったことではない。企業のM&A同様に近年増加しているのが、医療法人のM&Aである。毎年かなりの件数に上り、しかも年々増加の傾向にある。

 病院経営は、まだまだ改善の余地が多い分野だ。医療機器の仕入れや、人材の配置の点で、必ずしも経済合理性が追求されずに経営されているケースが多い。

 典型的なのは、経営不振に陥った病院を、力のある医療法人が買収するケースだ。また、医療機関設立には認可が必要なため、病院のM&Aには参入障壁を突破する手段という側面もある。都心など病床過剰地域では、新たに病院を設立しようとしても認可が下りない。そこで、その地域に進出する手段として、既存の病院を買収する形を取る。

 病院の場合、買収価格の際に1ベッド幾らという言い方がされ、高額なケースでは、1ベッド1000万円というものもあった。200ベッドある病院であれば、20億円の値がつく計算になる。病院買収の際の価値評価は、基本的には企業同様キャッシュフローで算定するが、値段は、敷地の地価や場所柄、患者数によって変動する。また、暖簾代として、ブランドの力も価格に強く反映される場合がある。病院のレピュテーションが量られるケースだ。

ブランド価値を買って
成功した山王病院

 典型的なところでは、山王病院の例がある。山王病院とは、芸能人が出産などでよく利用することでも知られる、東京・赤坂にある有名病院である。聖路加病院、愛育病院と並び、憧れの3大病院といわれ、もともと高い名声を博していた。だが、現在でこそ、ホテル並みのセキュリティとサービスを実現し、全室個室という高級医院だが、以前は他2病院に比べ、建物も設備も老朽化し、経営的に遅れを取っていた。また、多額の銀行借入を抱えて資金繰り的にも厳しい状況だったという。

 その山王病院を、1996年に国際医療福祉大学グループ(高木グループ)が買収した。同グループの経営者・高木邦格氏は、経営権を獲得した4年後の2000年に、旧医院のすぐ近くに新山王病院を建て、旧病院を分院(山王メディカルセンター)として位置づけた。医師・看護師などのスタッフも大きく入れ替え、実質的に別の新しい病院に生まれ変わったのである。